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インフレ時代に起こるマネーの大移動:レイ・ダリオ
2020年7月25日

レイ・ダリオ氏が執筆中の新著『変わりゆく世界秩序』(仮訳)から、前回紹介したニクソン・ショックの後についての描写をいくつか読んでおこう。


1971年ドルや他の通貨が金とのリンクを解消して以降、世界は不換法定貨幣制度に移り、ドルは金・他の通貨・株式・最後にはすべてに対して価値を下げた。・・・
お金と信用の拡大に制約を与える、金にリンクする貨幣制度から脱した結果起こったのは、お金と信用(の拡大)の大幅加速、インフレ、原油・コモディティ価格(上昇)、そして債券ほかの債務のパニック売りだった。
これは金利上昇を引き起こし、1971年から1981年の10年間のほぼすべての期間で、投資家を不動産・金・収集品などハード・アセットへ走らせた。

ダリオ氏が自身のSNSで書いている。
同氏は、政府が貨幣の大規模増発を行う度に貨幣の価値が大幅低下したという。
最近でいえば2008年のQE宣言、今年の大規模財政・金融政策。
つまり、足元でドルは危ないと言いたいのだ。

最近ではインフレや、まともな金利を知らない世代が多くなった。
金利は中央銀行が操作できるから、当面大きく上がることはないだろう。
(上がれば財政破綻しかねない。)
しかし、インフレはどうか。
おそらくインフレを知らない世代には、こうした想定の妥当性を考える前に、インフレをイメージすることすら難しいのではないか。

ダリオ氏は、戦争を語る老人のように、大昔突如として広まった「インフレ心理」を紹介している。

インフレは『インフレに先んじるため』アメリカ人に借金をさせ、すぐにモノを買わせる。
ドル建て債務のパニック売りは金利上昇を引き起こし、1944年に固定され1971年まで公式にとどめおかれた35ドルの金価格を1980年には850ドルのピークまで押し上げた。
インフレは最大の政治的問題となり・・・

お金の価値が下がるから、お金を保有するのではなく、お金を借りてモノを買う行動に人々を走らせる。
お金を借りるのが有利ということは、債務性の資産クラスは不利ということだ。
人々は余ったお金を置いておく場所を探し、金にも群がったのだろう。

アラン・グリーンスパン元FRB議長は最近、政府はインフレの発生を防げないと言い切っている。
インフレが発生するのは、その原因が発生した後のことだからだ。
政治家・官僚は、インフレという重い問題が発生するまでその点を無視して心地よい拡張的政策に没頭する。
ついにインフレが起こると、その時点の指導者は自身や前任者のツケを払うことになる。

ダリオ氏は書いている。

「ほとんどの人はお金と信用がどのように動的に機能するか理解していなかったが、高インフレ・高金利の形で痛みを感じており、慢性的な政治課題となった。」

1970年代のインフレの場合、ニクソン、フォード、カーター各大統領の首を絞めた。
カーター大統領はポール・ボルカーをFRB議長に就けインフレの収拾を図ったが、それにはFF金利を20%にするなどの荒療治が必要とされた。
ボルカー議長(当時)が立ち向かったインフレの原因は、いうまでもなく「1970年代の緩和的なマネー・信用の政策」だ。

世界中で銀行が借り手、とりわけ急成長しコモディティを産出する新興国に貸し付けた。
私は、1970年代終わりに世界が債務サイクルのバブル局面にあるのを目にした。
私は、ドル・ドル建て債務のパニック売りとインフレ・ヘッジ資産への回避、ドル借入急増を目にした。
これが、主要通貨としてのドル・ドル建て債務の持つ富の保存手段としての信頼を揺るがした。

ダリオ氏が予想するように、今後ドルの価値の大幅な低下が起こるのかどうかは定かにはわからない。
過去の同様の局面と似たところがあるのは事実だが、未来とはそれだけで決まるものではないだろう。
ましてや円にいたっては、ドルよりインフレになりにくい面もいくつかある。
ただ、過去や他国とは異なる点があるからという理由で、インフレが起きないと決めつけるのは愚かなことだ。
投資でも政策でもリスク・シナリオをはなから検討もせず無視するのは愚行というしかない。

著名投資家の多くが好むマーク・トウェインの言葉を思い出そう。

歴史は繰り返さないが、韻を踏む。


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