イノベーションの担い手:矢嶋康次氏

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏が、日本経済の生産性が低下していると指摘した。
その中で、マクロ経済の担い手について釘を刺している。


(アベノミクスの)3本の矢を使って潜在成長を上げられなかった。
特に成長戦略のところで生産性を上げられなかった。

矢嶋氏がテレビ東京の番組でアベノミクスの良かった点を挙げた上で、至らなかった点を指摘した。
同氏は極めてバランスのとれたコメントで定評がある。
政府側の見方にも、その逆の見方にも、是々非々で適切にチクりとやる。

全要素生産性(TFP)の低下については最近、元日銀理事の早川英男氏もコメントしていた。
生産性が高まっているとする日銀の見方は誤りであり、生産性が下がっていることが賃金上昇の阻害要因になっているとの指摘だった。
実質賃金上昇が政権の重要テーマならば、生産性はまさにキー・ワードなのだ。

矢嶋氏は生産性が上がらない理由を2つ挙げている:

  • 設備投資が新設でなく更新ばかり
  • デジタル化の流れに乗り遅れた

矢嶋氏は、企業経営の側の問題点を1つ挙げる。

内部留保が増え続けて、足元で定義にもよるがGDP規模になっている。
これは積極的とはいえないのではないか。

矢嶋氏は、これまでの日本の慎重な投資スタイルでは、デジタル産業など目まぐるしく変化する事業環境についていけないと心配する。
令和の時代は、古き良き「すぐ試してみなはれ」を復活させるべきと話した。

矢嶋氏のこの指摘は的を射たものであり、全く賛成だ。
しかし、1つ注文をつけたい。
それは、内部留保を悪とするレトリックの在り方だ。
この点については大昔から指摘してきたが、内部留保とは投資の糧となる重要な営みであって、悪とみなすべきではない。
多くの人がそれを理解していながら、いまだに内部留保悪玉論が語られるのには理由がある。
下表は、法人企業統計(金融・保険以外)をもとに、企業のバランスシートの各部を売上高で除したものだ。


バランスシート各部の対売上高比
バランスシート各部の対売上高比

何が問題なのかは明白だ。
金融資産対売上高比率が1980年度に比べて32%ポイントも増大していることだ。
売上高に対して46.6%の金融資産はやはり大きい。
これには2つの要因がありうるのだろう。

  • 企業の投資不足、貯めこみすぎ
  • 会計ルール変更の影響

おそらく両方が効いている。

この32%ポイントの上昇の大半を支えたのは内部留保の増加23.5%ポイントである。
だから、多くの人が内部留保を悪者にしている。
しかし、この言い方は明らかに本末転倒だ。
頭のいい人は理解しているからいいのかもしれないが、常人は誤解を招きかねない。

企業は内部留保と借入など資金調達をもとに投資を行う。
内部留保を悪者にすれば、投資はむしろ減ってしまう。
悪者は企業が抱え込む金融資産であって、内部留保ではない。
まずは内部留保して、事業投資のチャンスを探すべきだ。
もしも事業投資に至れば、内部留保はそのままで、金融資産(含む現預金)が減ることになる。

もしも自身で事業投資の機会を見出せないなら、その時は株主還元(配当・自社株買い)を行うことになる。
そうなると、金融資産と内部留保が減ることになる。

矢嶋氏はコーナーの冒頭近くで、最も重要なメッセージを述べている。

政府がやらなければいけないこともいろいろあるとは思うが、イノベーション(を担うのは)私たち民間だ。
そこをどうするかに尽きる。

少し悪い経済データが出てくれば騒ぎだすメディアが多い。
やれ金融緩和、やれ財政出動といった具合だ。
しかし、現業をやられている人たちが本当にそんなに頻繁に物乞いのようなことを言うとは信じられない。
ほとんどの人が営むのはもっと息の長い商売だ。

資本主義の世界で経済成長を担うのは民間部門だ。
政治家は票を買いたがる。
これを放置すると、計画経済をもくろむ専制国家のような特徴を強くしかねない。
政府・中央銀行が余計なことをやらないよう、主役が誰かをはっきりさせておくべきだろう。
それには民間の頑張りが大前提だ。


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