アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授は、今後の金融政策・経済環境に応じて4つのシナリオを設定し、それぞれの場合の理論株価を計算している。
1970年代の記憶があるほど年配の投資家は、その時期を高インフレの10年というだろうが、それは結果論にすぎない。
その初めにはインフレ上昇の10年に向かっていると信じる理由はなく、物価上昇の兆候は一時的要因(OPECが便利な言い訳に使われた)のためとされた。
ダモダラン教授が自身のブログで、インフレ昂進の後手に回ったFRB・バイデン政権を批判した。
インフレ昂進が不確実であろうと、破壊的影響を及ぼしうるインフレにもっと警戒すべきだったと苦言を呈している。
「FRBを、金利を設定し、経済成長を決め、インフレを抑制する全能の存在とする考えは神話」であり危険だと切って捨てた。
ダモダラン教授は、今後の経済成長や金融政策に応じて4つのシナリオを用意している。
- 空騒ぎ: 経済は良好なままで、インフレはFRB目標に戻る。
企業収益は予想通りで、株式リスクプレミアムは過去の標準に戻る。
株価はおそらくかなり過小評価されていることになる。 - ボルカー再来: 強力な金融引き締めで不況入りするがインフレ・金利は低下。
株価はリスク・プレミアム次第。 - インフレと共存: 経済を持たせるため金融引き締めが不十分となりインフレは高止まりするが、企業収益も持つ。
株価はインフレによるリスクプレミアム上昇の度合いによる。 - 1970年代ショー: 景気後退+高インフレ。
「リスクプレミアムは急拡大し、市場はさらに50%近く調整する。」
ダモダラン教授はそれぞれのシナリオについてデジタルにS&P 500の理論価格を計算している。
胸に染みる数字となっており、見ておくことをお奨めする。
4つのシナリオのうち極端に見えるものが実現する確率も決して小さくないように思われる。
1970年代に上昇した主要資産クラスが不動産と金だけだったことは有名だ。
ダモダラン教授もこの2つの資産クラスに言及している。
ただし、決してポジティブな話ではなく、注意すべき点を指摘したものだ。
- 不動産: 証券化が進んだことでインフレ・ヘッジの効果が減った可能性がある。
- 金: 市場規模が十分なく、生産的でない。
ダモダラン教授は暗号資産やNFTについても触れているが、ファンを悲しませるだけなので割愛しよう。
教授は文末で、インフレ昂進が厄介なものだと改めて指摘している。
おそらく「空騒ぎ」シナリオだけはあまりありそうにないと考えているのだろう。
瓶から出たインフレという魔物は、歴史の教えるとおりなら、瓶の中に戻すのに時間がかかり、大きな痛みをともなう。・・・
言うまでもなく(FRBと政権は)岩場(インフレ上昇)と難所(景気後退)の板挟みとなっている。
『だから言ったじゃないか』というかもしれないが、現実とは、みんなが痛みを感じることになるということなんだ。