グリーンライト・キャピタルのデービッド・アインホーン氏が、珍しく大きなマクロのポジションをとったと明かしている。
インフレ上昇で稼ぐ様々な方法を研究したところ、最も直接的な方法、米CPIの予期せぬ上昇に賭けることで決着した。・・・
5月には2・5・10年のインフレ・スワップが内包する将来のインフレ(年率)はそれぞれ約0.1%、0.8%、1.3%だった。
過去10年のインフレ(年率)は平均1.7%であり、仮にインフレが長期平均まで戻るだけでもかなりのリターンが得られると考えた。
アインホーン氏が、第2四半期末の顧客向け書簡で、インフレ進行に賭けるマクロ・ポジションを設定したと明かしている。
株式の個別銘柄のロング/ショートのイメージが強い同氏だけに、それほど背中を押される光景を目の当たりにしているのだろう。
実際、インフレ昂進を予想する投資家の数はかつてなく増えている。
グリーンライトの第2四半期のリターンは1.0%だった。
S&P 500指数が20.5%だったから、アインホーン氏の苦難はまだ続いているというべきだろう。
これが何らかの問題に根差すものなのか、それとも同氏のスタイルにとって甘受せざるをえない生みの苦しみなのかを判断するのにはまだしばらく時間が必要だ。
そもそもアインホーン氏は、リーマン・ブラザーズ破綻を予想するなど、大きな下げ相場で浮かび上がるタイプだ。
強気相場が人為的に維持されているうちは雌伏を続けることになる。
インフレ・スワップのポジションに関する限り、出だしから順調であるようだ。
すでに、第2四半期末の時点で2・5・10年のインフレ期待はそれぞれ1.3%、1.4%、1.6%までリバウンドしている。
アインホーン氏はこのポジションについて、金利とインフレは別物であると説明している。
私たちは、国債ショートがインフレ・スワップほどには魅力的と考えない。
国債価格はもはや自由市場の価格を反映しないからだ。
中央銀行は、名目金利を抑え込むことができる。
日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)の一環として行っている指し値オペのような介入を実施すればよいからだ。
FRBがYCCを検討している今、大きく債券価格が下落すると見込むのは難しい。
その証拠に、3月の底から10年のインフレ期待は1%上昇したが、10年債利回りは動かなかった。
つまり、インフレ上昇に賭けるのは理にかなっているが、金利上昇に賭けるのはさほど有望でないということだ。
これは、日本の投資家についても注意すべき点である。
日本でもインフレが高まる可能性はそこそこあろうが、金利が高まる可能性はかなり低い。
(金利が大きく上昇してしまうと財政破綻してしまうため。)
だから、変動金利国債で金利上昇をヘッジする意味は大きくないのだろう。
一方、物価連動国債でインフレ上昇をヘッジするなら、テール・リスクへの備えとして相応の意味があるのかもしれない。
もっとも、物価連動国債を用いなくても、より値動きの良いヘッジ手段は他にもあるだろう。
アインホーン氏は、金利が長く低く抑えられる可能性が高い点から2つの命題を引き出している。
1つ目は、実質金利がマイナスになり、それがドル安と金・金鉱株上昇の引き金を引きつつある。
2つ目は、長期金利は市場によって決められておらず、長期金利の前提に紐付いている長期資産の価値の計算には瑕疵があると思われる。
金利と金融政策については世の中にいろいろな意見がある。
ベン・バーナンキ元FRB議長らFRB関係者が好むのは、金利を決めるのは中央銀行ではないというもの。
金利を決めるのは経済のファンダメンタルズであり、低金利は低成長の表れだという議論だ。
これは一面で正しいが、言い訳にすぎない。
もしも低金利が経済のファンダメンタルズの反映なら、金融政策などやめてしまえばいい。
それでも金利は低いままのはずだ。
しかし、それを実行する中央銀行はない。
金融政策とは、中央銀行が市場を経済実勢から乖離させられることを前提とした営みだ。
アインホーン氏は、人為的な低金利を前提とした資産価格の危うさを指摘する。
低金利が一因となっている、利益を上げていないグロース株の天文学的なバリュエーションについて市場が考えているのは、インフレにともなう国債利回りの上昇がなくても、それら企業がインフレ期待の上昇によって破滅するというものだと信じる。
日欧のような他の市場で長く認識されてきたのは、人為的に制御された長期金利が空高い株式バリュエーションを正当化することがないということだ。
この書簡の中でアインホーン氏は、長くショートを続けているテスラについて1ページ以上を割いてディスっている。
テスラ株価の急騰により、そのバリュエーションを議論する意味はなくなりつつあり、ここでは紹介を割愛する。