やったもの勝ちの不条理な世界:ハロルド・ジェームズ

プリンストン大学のハロルド・ジェームズ教授が、世界に蔓延するポピュリズム的経済政策に危機感を呈している。
健全な批判さえ押しつぶされかねない現状を生々しく説明している。


QE、ゼロ金利、そしてマイナス金利を中心とする金融政策は、ある種の政治家にとって異常に寛容な環境を生み出してきた。
自身の人気取りのために現状を利用しようとする人たちの前途は洋々だ。
少なくとも今は。

ジェームズ教授がProject Syndicateで書いている。
別にどこの国のことと書いているわけではない。
おそらく米国を主眼に置いた議論なのだろうが、その他の国にもあまねく当てはまるように聞こえる。

ジェームズ教授は、金融・財政政策がポピュリストの権力掌握の手段として利用されていると言いたいのだ。
1つのきっかけは先の世界金融危機にあったのだという。
教授は、ポピュリストが展開した情報戦をこう書いている。

彼らの最初の仕事は、彼らのやっていることが危険ではないと選挙民を説得することだ。
しかし、古いリベラルな秩序の終わりが現在至るところの政治で聞かれているのを考えれば、これはそう難しいことではなかった。
先進各国で、2008年の金融危機以来、古いルールはもはや通用しないとの考えが広まった。

少し前に某国で流行ったマネタリー・ファイナンスの話にも当てはまるし、かなり前になるが盛んに高名な経済学者を引き合いに出して政策を擁護しようとした政治家にも当てはまる。
拡張的政策を深堀りすることは(メリットもあるが)ほとんどの場合同時にリスクを高めるのだろうが、どこにも危険地帯の線引きがされていないため、どんな議論でもできてしまう。


「この勇敢な経済では、誰も権威を持ってどの程度の債務が危険かを言うことができないようだ。
しかし、それは劇的な反転が起こりうる債務レベルの存在を否定するものではない。
預金者・投資家が神経質になれば、債務のコストは再び上昇する可能性があり、既存の債務ストックが持続不可能になる。
そうならないと、ポピュリストの魔法は終わらない。」

ポピュリストの常套句は《いつでも引き返せる》というものだ。
しかし、実際には金融政策も財政政策も圧倒的に拡張的な側にバイアスがかかりやすいのも事実だろう。
拡張的な金融・財政政策は問題先送りにも効果があるから、拡張的政策は深みにはまりやすい。

その不吉な予言が人気のピーター・シフ氏は常々、危機が起こらない限り放蕩は止まないと言ってきた。
しかし、現実は少し違う。
危機が起こっても、少し時間が経ってほとぼりがせめると、再び放蕩が始まるのだ。
なにしろ、それが政治家の権益掌握のためだからだ。
逆に、損することはあっても何の得もないのに苦言を呈する人たちには災難が訪れる。

従来の政治と古いルールを維持したい人たちは困った状態に置かれている。
繁栄を終わらせたいわけではないのに、ポピュリストの隣に立つと、そうしたいように見えてしまう。
ポリアンナ(楽観主義者)が立候補している時にカサンドラ(悲観主義者)に投票する人はいない。
カサンドラの警告が正しいとわかった時にはもう遅いのだ。


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