もうデジタル・キャッシュを使っている:ケネス・ロゴフ

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授が、マイナス金利政策を有効にするためのデジタル・キャッシュについて考えるべきと説いている。
景気後退期の利下げ余地は乏しく、量的緩和の効果も限界が近いとの背景によるものだ。


「金利がずるずる下がってきて、日欧ではゼロ近傍だ。
米国では少し上がったが、まだまだとても低い。
もしも何かが起こったら、利下げの余地は限られている。」

ロゴフ教授がBloombergのインタビューで、世界的な低金利の現状を心配した。
世界の景気は良好といわれながら金利は低い。
仮に景気後退がやってきても、各国の中央銀行が利下げできる余地は極めて小さい。

かわりの金融政策の手段をとることになろう。
しかし、学術文献、FRBの論文でもますます効果の限界を重く見るようになってきている。

ロゴフ教授は従来からあまり量的緩和政策を買っていない。
教授は量的緩和が期待に働きかけるための見せ金にすぎないと考えている。
しかも、それが中央銀行の仕事かどうかも怪しいという。

量的緩和のような政策手段では、財務省の方がうまくやれるんだ。
ドナルド・トランプが量的緩和を強化して欲しければ、財務省に短期債務の発行を増やし長期債務の発行を減らさせればいい。
それと全く同じことなんだ。

各国で見せかけの政策が採用されたのはなぜか。
それは、財政政策の枠組みの中でマネタリー・ベース拡大を行うことを各国政府が意思決定できなかったからだろう。
本来政府が行うべきことが決められない。
そこで、独立性というお題目の下、治外法権となっている中央銀行が国債買い入れという形で実行したのだ。
ロゴフ教授は、この点をくさしているのだろう。

「急激な景気後退や金融危機が起こる場合、利下げ幅は5-6%になる。
問題なのはそれをどうやるかで、さまざまな提案がなされている。
さほど複雑でなく、大量の現金保有をやめさせるやり方だ。」


ロゴフ教授は、それがマイナス金利政策だという。
教授は、キャスターが浴びせる批判を切って捨てる。
現金保有に税を課すようなやり方はよくないのではないか?

「今だってインフレがある。
今現金を当座預金に預け入れれば、毎年(価値が)小さくなって引き出すことになる。
米国は安定したインフレを維持したいという政策を掲げている。」

不思議なことに、現在多くの国がインフレ率の上昇、つまり《インフレ税》の増税を望んでいる。
現金保有にペナルティを課すという意味で、マイナス金利とインフレとは似たものだ。

キャスターは、通貨の電子化について尋ねた。
マイナス金利のために通貨を電子化し、暗号資産のような枠組みを使うことになるのか?
ロゴフ教授のスタンスははるかに現実的だ。
一足飛びにSFの世界に飛び込むのではなく、現実をまず見回せば、スタート地点は決して悪くないのだ。

「まずは始めよう。
私たちはデジタル・キャッシュを持っている。
それは市中銀行の準備預金、多くのシステム、ほとんどの事業、ほとんどの人がすでにデジタル・キャッシュを使っているんだ。
問題は、どこまで小口のものまでそれを強いるかなんだ。」

現金をどこまで規制するか、それは社会の望み次第だという。
犯罪・違法行為の現金使用を規制することに反対する理由はない。
一方、小口の経済活動に現金を利用することを禁止する理由もないという。

チェスの名手としても有名なロゴフ教授は、先の先の手までも読み切っている。
現金へのマイナス金利課税と聞けば、現状ではナンセンスと聞こえる。
しかし、ロゴフ教授の用意周到な語りを聞くと、あながち不可能でもないように聞こえてくる。

日本ではマイナス金利政策が実施されていることになっているが、実は限定的にすぎない。
超過準備への付利については全体の一部にマイナス金利が付されているにすぎない。
イールド・カーブがマイナス圏に沈んでいるのも、さほど大きく沈んでいるわけではない。
大きく沈むようなら、多くの人が現金保有を考え始めるだろう。
本来、マイナス金利政策の真価とは、その状況になってより発揮されるものなのだ。

FRBは来週・来月のことだけでなく、将来も見据えることを期待されているはずだ。
FRBはもっと独創的なアイデアにも目をむけるべきだ。


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