しばらくはインフレは心配ない:J・ブラッドフォード・デロング

カリフォルニア大学バークレー校のJ・ブラッドフォード・デロング教授が、典型的な金融緩和擁護論を展開している。


米インフレ率は今後数年2%程度にとどまるだろう。
米金融政策の選択はそれを反映したものとすべきだ。

デロング教授がProject Syndicateに書いている。
「2%程度」というかなり限定した数字について詳しい根拠は述べられていないが、インフレがさほど上がらないだろうという意味なら多くの人が賛成するのではないか。
それほど世界的にインフレが上昇しない状況が続いている。

「私がまだ准教授だった1990年代、大ざっぱな法則として失業率がこれほど低いとインフレは年あたり1.3%上昇するというものだった。
今年のインフレが2%とすれば来年は3.3%となる。
そして、もしも失業率が同水準に留まれば、インフレ率は翌年以降4.6%、5.9%となるとされていた。」

労働市場のタイト化がもたらすインフレがこうも過酷だったことがあったのだ。
低失業率は単年で効くだけでなく、継続的かつ累積的にインフレを押し上げていたのだ。
これこそ高齢の世代がインフレを恐れる理由の1つだろう。

デロング教授は、それがある時変わったと指摘する。

しかしながら1988年以降、最も単純化したフィリップス曲線の傾きは実質ゼロになった。
推計された回帰式の係数はわずか-0.03だ。

デロング教授が言いたいことは明確だ。
労働市場を刺激してもインフレが起こらないのだから、必要な時には金融緩和をためらってはいけない、ということだ。
とりわけ次の景気後退期すでに刺激策が講じられてきたという理由で金融緩和を禁じ手にすべきでないといいたいのだ。
こうした思いは、米国でも増えている長く深い金融緩和への懐疑論へ向けられたものだ。

「過去30年間が1950-80年代におけるデータ・ポイントと何ら類似点を持たないにもかかわらず、金融政策担当者は急激なインフレ加速のリスクに集中すべきと信じる人が多く、インフレは景気後退の可能性より大きな脅威だと示唆している。
・・・
どうして彼らがこの結論に至ったのか私には理解できない。」


経済学とはなんと無力なものか。
デロング教授が相手方の思考を理解できないのは理解できる。
ただ、逆もまた真であるはずだ。
デロング教授は、状況が変化したと指摘したが、それは正しい。
しかし、再び変化する可能性には当面目をつぶろうとしている。
米長期金利の推移をみるだけでも、米経済が趨勢的な転換点にある可能性がゼロではないと想像できる。
誰も、インフレが世界からなくなったのか、いつか息を吹き返すのか、それがいつか、を証拠をもとに証明できる人などいない。

デロング教授は、インフレが訪れない理由を極めて具体的に説得力のある形で書いている。

「インフレ勃発が脅威になりうるのは事実だ。
しかし、そのリスクだけにとらわれた考えは異なる時代の産物だ。
米政権が連続して(リンドン・ジョンソン政権とリチャード・ニクソン政権)しつこく高圧経済を追求し、FRB議長(アーサー・バーンズ)が大統領府の要求に応えようとした時代の産物だ。
当時は、世界経済の主要な投入物(原油)を統制するカルテルが、大きな負の供給ショックを引き起こす力を有していた。」

デロング教授は、この条件が今は成立していないと判断している。

なるほどOPECが弱体化したことは1つの大きな違いだ。
一方、大統領府とFRBのあたりは決して似ていないとは言えまい。
学者はともかく、実務家はこの意見だけでインフレ昂進をリスク・シナリオ(メイン・シナリオでなく、それより発現確率が小さいと思われるシナリオ)からも外してしまっていいのだろうか。
この懸念への答はデロング教授の結びの言葉から明らかだ。

経済構造や主要な経済政策ミックスが変化するまでは、今後5年間で米国が過度なインフレに直面するリスクはほとんどない。
金融政策担当者はしばらくの間は他の問題に注意した方がいい。

なんだ、たった5年の話をしていたのか。
6-10年後に過度なインフレに直面する可能性がある程度あるなら、すでに長期金利はそれを織り込むべきことになる。
それが起きていない。
つまり、長期金利にはいつでもサプライズが起こりうることになる。
仮に起これば醜い影響を市場に及ぼし、資産効果の大きな米経済も影響を被るのだろう。

デロング教授は中央銀行に「他の問題に注意」すべきと促している。
是非とも注意してほしいのは、金融緩和に敏感に反応する資産インフレだろう。
ドットコム・バブル、住宅バブルに続いて3度目のバブル崩壊を引き起こさないよう、FRBは金融政策がどうあるべきかを考えるべきだ。
これは、おそらく多少のインフレのオーバーシュートよりはるかに重大な問題だろう。


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