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【輪郭】悪貨は良貨を駆逐する・・・通貨の壁を越えて
2020年2月28日

最近、投資先を模索する中で、グレシャムの法則には第2法則でもあるのではないかと思えてくることがある。(浜町SCI)


悪貨は良貨を駆逐する

有名なグレシャムの法則だ。
Wikipediaによれば「貨幣の額面価値と実質価値に乖離が生じた場合、より実質価値の高い貨幣が流通過程から駆逐され、より実質価値の低い貨幣が流通する」というものだ。
日本で言えば、江戸時代の度重なる改鋳がその例。
金の含有量を落とした小判(悪貨)を発行した結果、人々は良貨を貯め込み、良貨の流通がなくなってしまう。
もちろん、この議論は、良貨も悪貨も同一の法定通貨であることを前提としている。

これとは少し事情が違うものの、今も「悪貨は良貨を駆逐」しているように思えてならない。
異なる意味での「駆逐」である。
そう思ったのは、老投資家マーク・ファーバー氏のこの言葉からだった。

ドイツの場合、他国がインフレにならなかったことがハイパーインフレの発生を可能にした。
だから、マルクが外国通貨に対して減価し、それがインフレ圧力を増した。
現在の世界の金融政策の状況では、みんなが量的緩和を行っているために通貨が互いに大して崩壊しない。

まさに今世界に溢れる悪貨の不思議を言い当てている。
日本円は安全通貨? 米ドルは安全通貨?
そんなはずはなかろう。
いずれも悪貨でしかないのに、リスク・オフ時の受け皿になっている。
世界に良貨といえるものが存在しないからだ。

なぜ良貨は消えてしまったのか?
それは悪貨が駆逐したためなのではないか。
悪貨が悪貨になる過程で、良貨はどんどん高くなり外需産業を苦しめる。
良貨の中央銀行は利下げで応じるが、利下げだけで対処できるはずもない。
量的緩和も駆使して対処しようとするが、量的緩和は政府内部の付け替えにすぎず効果は薄い。
だから、財政出動して、発行した通貨を市中に放出することになる。
こうしてまた、世界に悪貨が1つ増える。
悪貨が良貨を駆逐したのだ。

金融も放漫、財政も放漫な国々の通貨がインフレも通貨安も起こさない。
その背景には、上記のような悪しき均衡があるのではないかと思えてならない。

例えば、ドイツがEUから離脱し、マルクを再び発行したらどうなるだろう。
おそらくマルクは当座、真の安全通貨となり、需要が殺到するのではないか。
結果、マルク高が進み、ドイツは金融緩和に追い込まれるのだろう。
そして、それでも足りず、財政出動を実行することになるのではないか。

次の疑問は、悪貨の均衡が崩れる時が来るかだろう。
たとえば、極めて珍しい理由によって、ひたすら自国通貨高を喜べる国があるか。
とても考えにくい。
国家以外ならどうだろう。
たとえば、規律ある民間ベースのデジタル通貨などだ。
これも考えにくい。
なぜ考えにくいかといえば、産業、とりわけ貿易をともなわない通貨は、そもそも世界の人々から幅広く受け入れられるのが難しいからだ。

何とも皮肉なことだ。
どこかの輸出依存の低い国が一念発起し、辛苦を耐えて、自国通貨を良貨に戻そうとしたらどうなるか。
その通貨は上昇し、その国はシニョレッジを稼ぐことができる。
交易条件は改善し、豊かな国になれるかもしれない。
その裏側で、現在の主要通貨の化けの皮は剥がれ、売られ、シニョレッジは失われていくことになる。

世界とはバランスよく腐っていくことが大切なようだ。
そのために「悪貨は良貨を駆逐する」ことが必要とされているのだ。




山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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