国内経済 投資

【輪郭】「リスク・オフの円安」になる時
2019年10月3日

市場関係者の中で、円高が思ったほど進まない現状に首を捻る声が聴かれるようになった。
少々気が早すぎるような印象もあるが、ポイントをおさらいしよう。


リスク・オフで円高に振れやすい理由はもうかなりコンセンサスができている。
リスクを嫌がり、円投外貨転での外貨資産への投資(またはそれと同等の合成ポジション)が巻き戻すためだ。
これが優勢となるのは、その前のリスク・オンの時期に、調達コストの安い円によって運用リターンの高い外貨へ投資する活動が起こっていたためだ。
同じことは程度こそまちまちだがドルや円についても言える。
つまり、世界的なリスク・オフでは、円もユーロもドルも買われやすい。
ドル円では円の方が金利が低いために、リスクオフの円高ドル安となりやすい。

ところが、最近この傾向があまり見られないと主張する人が増えている。
さまざまな材料があっても、ドル円が105-110円レンジで膠着しているからだろう。
この現状については、これまでもさまざまな解説がなされてきた。
しかし、最近の論調はやや歯切れの悪いものも多い。
みんな何を恐れているのか。
言うまでもなく《リスク・オフの円安》に転じる恐れだろう。
中国のように資本逃避が日本でも始まる懸念だ。

リスク・オフで例えば円キャリーの巻き戻しが起こる理由は、投資家が最終的なお金のあり場所を円と考えているためだ。
危ないからリスク・テイクを減らしつつ、あるべきところに資金を戻している。
仮に、日本人が最終的なお金のあり場所を外国と考えたらどうだろう。
円キャリーのリスクは感じられなくなり、外貨に置いておくことこそリスク・オフになる。
これが《リスク・オフの円安》の1つのシナリオだ。

さて《リスク・オフの円高》には酷な面と優しい面がある。
酷な面は日本人お得意の議論だ。
厳しい時期に輸出産業がダブル・パンチを受けることになる。
優しい面は、円高による交易条件の改善により家計・輸入セクターが恩恵を受けることだ。
輸出産業で働く人にはそれでも打撃だろうが、円高には薄く広い恩恵も存在する。
投資家の中には、円高で外貨資産の評価額が(円建てで)減ってしまうことを嘆く人がいるが、これは一部しか見ていない考え方だ。
その投資家が円も多く持っているなら、その円の価値は上がり、潜在的に購買力が高まっているからだ。

ところが、《リスク・オフの円安》になると優しい面が消えてしまう。
厳しい時期に家計は輸入物価上昇に苦しむことになる。
輸出産業は恩恵を受けるのだろうが、輸入物価上昇が行き過ぎればもちろん有害だ。
厳しい時期の円安は輸入物価上昇を通してスタグフレーションを連想させる。
日本は民間最終消費支出が全体の約6割を占める経済だ。

日銀は2015年6月、ドル円が125円を超えたあたりでいったんブレーキを踏んでいる。
この水準に、何らか日銀なりのめどがあるのだろう。
ドル円が80円だった時代とは異なり、心地よい円安の余地はそう残っていないように思える。

ただし、近時に円高が進みにくいからといって《リスク・オフの円安》を心配するのは早すぎる。
確かに信じられないようなニュースが多く聞かれる世の中になったが、米経済はまだ後退はしていない。
米実質金利も落ち着いている。
世界経済も一時の混乱は脱したように見える。
円高が進まなくても驚くような状況ではない。

本当の心配は、次の景気後退期に円高が進まなかったらすればいい。
そうなると、日本人(企業も個人も)のお金の最終的なあり場所が国外に移る可能性が確認されてくる。
それは、もちろん円売りのサインになるが、今それを心配すべき材料は多くないように思える。


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