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【短信】第2次大戦後のムード:ロバート・シラー
2023年8月30日

6月のケースシラー住宅価格指数は前月比⁺0.7%、前年同月比では横ばいだった。
同指数の生みの親 ロバート・シラー教授が現状の米住宅市場についてコメントしている。


「住宅ローン金利は大幅に上昇したのにみんな多くの都市で(住宅)価格を押し上げている。
全体での1年の変化はちょうどゼロで、半分の都市で上がり、半分で下がり・・・
かなり劇的な住宅ローン金利のニュースにもかかわらずね。」

シラー教授がCNBCで、米住宅市場の強さについて語った。

ケースシラー住宅価格指数(青、左)と住宅ローン30年固定金利(赤、右)
ケースシラー住宅価格指数(青、左)と住宅ローン30年固定金利(赤、右)

米国では住宅ローンの大半は固定金利で約定されている。
標準的なのが30年固定金利であり、過去2年で3%弱から7%超まで上昇した。
それにもかかわらず住宅価格は堅調だ。
ここに注目が集まるのにはもちろん理由がある。

ケースシラー住宅価格指数(青、左)と住宅ローン30年固定金利(赤、右)リーマン危機前後
ケースシラー住宅価格指数(青、左)と住宅ローン30年固定金利(赤、右)リーマン危機前後

2007年までの米住宅バブルでは、住宅ローン金利が現状と同様のレベルになってからほどなくしてバブルが崩壊した。
この再来を危惧する人たちがいる。

シラー教授は、その可能性を否定はしない。
しかし、強く肯定もしていない。
ただ、現在の状況を過去の似た時期と重ね合わせている。

「ある種の歓喜だ。
コロナが終わった、といった感じだ。
きっと第2次大戦後の市場のようなムードなんだ。
『戦争は終わった。お祝いをしよう。』
通常に戻るにしたがって大きな住宅需要があるだろうとみんな考えた。」

シラー教授が大戦後に触れたのは今回が初めてではない。
2021年5月には同じく住宅市場がバブル化するリスクを警告し、似た時代を2つ挙げていた。
スペイン風邪パンデミック後の狂騒の20年代と戦勝に沸く第2次大戦後だった。

シラー教授は、住宅市場の堅調さに関し住宅の特殊性についても言及している。

「価格が上がり始め、みんなが話題にするようになり、ばかげた状況になる場合もあり、それでもみんな売りはしない。
特に住宅を売りに出すのは大事なんだ。
だから思うより長く続くことになる。」

現在の米住宅市場の堅調さを支える要因の1つは住宅在庫のなさだ。
出物がなく、新築住宅建設にも限度があるから、価格が下がりにくい。

資産市場分野での実証研究の第一人者は、現在の住宅市場を明らかに行き過ぎとは見ていないようだ。

現在、人々の期待は極端に高くはない。
でも、みんな(住宅市場に)しがみついており、バブル状態かもしれず、下がるかもしれない。

過去のデータと照らしてもわからないことはわからないと言い続けるシラー教授。
「わからない」というメッセージに込められた意味合いを酌んでおきたい。
誰よりも過去を知っている人でもわからない、ということなのだ。
軽々しくわかったつもりにならない方が賢明だ。

住宅価格が堅調であれば、CPIの高止まり・上昇の要因となりうる。
一方、下落に転じれば、景気を冷やし、他のリスク市場を冷やす要因となる。


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