ローレンス・サマーズ元財務長官が、政権に端を発した景気悪化について警告している。
いつもながら、理路整然と隙なく厳しい批判を浴びせている。
深刻な不確実性の問題が生じており、正すのが難しい状況だ。
予想されていたより経済が鈍化するのはほとんど確実で、景気後退入り確率が50%近くまで上がっている。
サマーズ氏がBloombergで、米景気後退入り確率が高まったと語った。
期限は明示されていないが、通例から言って、年内の景気後退入り確率を指したものだろう。
同氏は、今後の動向を注視するため、イールドカーブ(フラット化)、株式市場(特にシクリカル)、経済データ、コモディティ市場、企業経営者の見通しなどに注目すべきと述べている。
イールドカーブのフラット化は利下げ幅拡大予想を反映する面があり、もちろん株式市場は景気動向を先読みするものだ。
債券市場も株式市場も、以前より景気の先行きに対して慎重になってきているのだ。
通常、株式市場は景気後退入りを先読みしてピークアウトするもの。
注意すべきは、景気後退入りがその時点よりかなり後になって認定・宣言される点だ。
このラグがあるために、景気後退が認定・宣言された時点では、とっくの昔に株式がピークアウトしていたということになることが多い。
株式市場は、遠い景気後退入り、相当に遠い景気後退入り認定に先回りして行動している。
最近の米市場が浮足立つのも不自然ではない。
サマーズ氏は、市民・経済・市場に対し不確実性を投げかけるトランプ政権を批判する。
「米国がアジアや欧州と競合する中で、どうしてメキシコやカナダを生産パートナーとして利用しないことが米経済を助けることになるのだろう?
理屈が見えない。
どうして、社会保障給付が受けられるかどうかについて、人々を怯えさせるのか?
どうして、米国が国立衛生研究所で新薬開発を続けるかどうかについて、人々を怯えさせるのか?
どうして、これらのことが信頼感を高めることになるのか?」
サマーズ氏は、これら政策の方向性が誤りであることは消費者信頼感や市場によって明らかと指摘している。
2月21日にミシガン大学が発表した2月の消費者信頼感指数(確報値)は64.7(前月は71.7)に低下し、2023年11月以来の低水準となった。
同25日コンファレンス・ボードが発表した2月の消費者信頼感指数も98.3(前月は105.3)に低下し、3か月連続の低下となった。
株式市場ではNASDAQ指数がすでに調整入り(10%下落)し、弱気相場入り(20%下落)をうかがっているほか、S&P 500も調整入りの水準に近づいている。
サマーズ氏は、米経済の方向性について推測する。
「はるかに起こりそうなのが、今は浅瀬にいて深みに向かって歩いていくということ。
時間とともに問題が積み上がっていくだろう。」
トランプ政権では、長期金利の上昇を警戒するなど、第1次政権の時と比べればかなり理に適った考え方も増えてきた。
しかし、サマーズ氏は、軽々に短期的な市場動向を自慢の種に使いたがる政治家に対し、矛盾を指摘している。
「政権はしばしば、10年金利が低下している限りうまく行っている、と言っているようだ。
でも、10年金利はリーマン危機後に急激に低下し、(ITバブル後の)2001年の景気後退開始時に急激に低下し、コロナ開始後にも急激に低下したんだ。」
短期的な市場動向にも留意して保守的に考慮するのなら、むしろ健全かもしれない。
しかし、逆に我田引水のために短期的な動向を手柄にするのなら、誤っているかもしれない政策を継続させるという面で危ういのかもしれない。
足下の米長期金利低下をどう見るか。
トランプ政権の財政運営の賜物と見るか、米経済の鈍化と見るか。
政権の見方は市場コンセンサスとは必ずしも一致していないように見える。