【書評】錬金術の終わり-貨幣、銀行、世界経済の未来

リーマン危機後の世界の金融市場の混乱に立ち向かった一人、マーヴィン・キング前イングランド銀行総裁が書いた本質的な解決策への糸口。
タイトルにある「錬金術」とは、中央銀行が発行する貨幣を銀行が信用創造によって増やしていく営みを指したものだ。(浜町SCI)


キング氏は「錬金術」が「強さの源泉」ではなく「資本主義経済のアキレス腱」だという。
そこから発生しうる問題を予防・対処するには「大胆な悲観主義」に立つことが必要だという。

500ページ近い大作から2か所だけ印象深い点を紹介しよう。
一つ目は、最近ではすっかりおなじみになった経済モデルの欠点である。
キング氏はニュー・ケインジアン・モデルの欠陥を指摘する。
同モデルが金融危機においてほとんど役に立たなかった点である。


金融システムの存在しない経済モデル

「政府と中央銀行は大規模な計量経済モデルを使って予測を行っており、その大部分は洗練された『ニューケインジアン』モデルにもとづいている。
そこには、理論上でも、実際上でも、貨幣や銀行の役割が入る余地はほとんどない。」

そもそもモデル内に存在しないのだから、貨幣や銀行が構成する金融システムの不全にあたってモデルが役に立つわけがない。
何か観察・操作できることがあっても、極めて間接的なやり方でしかない。
さらにキング氏は続ける。

長期で見ると、インフレを決定するのは、貨幣の流通量ではなく、民間部門の期待である。
さらに、インフレ目標は完全かつ完璧に信頼できると想定されている。
つまりは、インフレ目標が自己実現するように賃金と価格が設定されると考えられているということだ。

少なくとも日本においては冒頭の「長期でみると、」は取り除いてもいいだろう。
日本のインフレ目標は信頼もされなかったし、人々のインフレ期待をアンカーすることもほとんどなかった。
日本のインフレが上向いた主因は(海外要因・循環要因を除けば)長期国債買入れによる長期金利下落、円安、需給ギャップ縮小であった。
いずれも期待というよりは現実そのものだったのだ。

キング氏は、無人島に流れ着いた経済学者のジョークを紹介する。
缶詰を見つけたが、缶切りがない。
経済学者は言う。

「私たちは缶切りを持っていると想定する。」

中央銀行はインフレ期待を高める「缶切り」を持っていると想定してきたが、それは事実ではなかったのだ。

(次ページ: デフォルトかインフレか)


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