【書評】金融正常化へのジレンマ

執筆:

日本経済研究センター 岩田一政氏(元日銀副総裁)、左三川郁子氏による金融政策の解説書。
日銀の異次元緩和の抱える課題、出口に向かう上でのハードルが詳説されている。


(アマゾン)金融正常化へのジレンマ

広範なテーマについて丁寧に分析・説明している。
金融政策の初心者が読み下すのはやや難しいだろうが、すでに金融政策をフォローしてきた人たちには格好の教科書となろう。
とにかくこの本は丁寧にテーマを扱っている。

一例を挙げるならシニョレッジだ。
通常なら、シニョレッジ(貨幣発行益)とは発行貨幣の額面と製造コストの差であり、貨幣を発行すると発行者が得ることのできる利益と説明される。
本書では、これを3つの側面から説明し、それらが一致すると解説する。

  • マネタリー・シニョレッジ
  • 機会費用シニョレッジ
  • インフレ税シニョレッジ

この豆知識が明日会社で役に立つことはないだろう。
しかし、10年後、特にインフレ税シニョレッジが広く注目される可能性はゼロではないかもしれない。


本書は良くも悪くもまじめで正統的な経済書だ。
考えるヒントがたくさん詰まっている。
もう1つ興味深い例は、異次元緩和が出口に向かう場合の日銀の損益シミュレーションである。
本書では3つのシナリオが用意されている。

  • ベースライン: 2%物価目標が達成され、政策金利が2%に戻され、日銀の保有長期国債がGDPの20%まで縮小
  • 大規模BS: 2%物価目標が達成され、政策金利が2%に戻され、日銀の保有長期国債がGDPの50%まで縮小
  • 物価1%出口: 2%物価目標は達成されず、政策金利が1%に戻され、日銀の保有長期国債がGDPの20%まで縮小

結果を見ると、ほっとするようでがっかりする。
なぜ、がっかりするかというと、この試算の仮定に市場の臭いがしないためだ。
静的な平衡状態が時系列で展開していく、そういういかにもありそうにない未来が書かれているように見えてしまう。
もちろん、不合理な市場の営みを捉えることは本書の目的ではないのだろう。
しかし、出口のリスクにおいて一番深刻なのは、不合理な市場の動きであるようにも思える。
そこが本書には見いだせない。

金融政策を学びたい人には絶好の本だと思う。
ただし、投資家や実務家が投資や事業のために金融政策を学ぼうとするなら、読者の側も相当なエネルギーを注ぐ必要があるだろう。


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