月初にAmazon Kindleでセールをしていると紹介した中にあった1冊。
今月いっぱいKindle版が499円となっているが、このお値段なら悩むことはない良書だ。(浜町SCI)
(本記事には2021年3月限定の情報が含まれています。)
私が米ビジネススクールでファイナンスを専攻した時、使った本はマッキンゼーの定番の本だった。
この本を使っている学校は多かったのだろうと思う。
まず、ペーパーバックが安く、多くの学校が使っていることが重要だった。
私はキャリアの中でかなりの期間M&AとPEを生業としていた時期がある。
M&Aとは交渉相手のある仕事であり、こういう仕事では共通語を話すことも重要だった。
だから、多くの人が読むマッキンゼー本を使うことには重要な意味があった。
ビジネススクールではまずファイナンス101(基礎講座)を勉強する。
その後に各論のコースを学ぶのだが、例えばインベストメント201といったクラスでこのマッキンゼー本が使われる。
ダモダラン教授のこの本も、201から301ぐらいのクラスで使われるような本だと思う。
マッキンゼー本は実務家が書いた本という印象が強かった。
今の版は知らないが、当時の版ではファイナンス理論から言えば誤りとされる内容も載っていた。
(ただし、実務上は可とされる範囲だった。)
ダモダラン教授のこの本は、ファイナンス理論にも重きを置いているという印象がある。
純投資という目的で資産価値評価を行おうという人は、この本でいいと思う。
実務面にもそれなりに配慮がおかれている。
かなりポイントに絞った書き方になっており、米国の本にありがちな無駄や冗長がない。
オプションを含めた資産価値評価が扱われており、せっかちな日本人にはあっている。
価値評価の理論を学ぶにはとてもよい本だろう。
ただし、当たり前だが、この本を読んだからすぐに実務ができるようになるわけではない。
頭のいい人なら、悩みながら実務にまで結びつけることができるかもしれないが、自分で考えるよりもう1冊何か読んだ方がいいだろう。
価値評価とはとても奥深い営みなのだ。
499円なら(読まないで終わるかもしれないが)とりあえず買っておけ、といえる良書。
ダモダラン先生の毒舌・卓見も随所にみられる。
第1章(序章)の初めからそれは現れる。
『ビッガー・フール』理論とは、自分の持っている資産をより高く買ってくれる『ビッガー・フール』がいるかぎり、資産の正当な価値などあってないも同然、というものものである。
もちろん、この理論に従って利益がもたらされる場合もあるだろうが、売りたいと思ったときにそういった大馬鹿者の投資家が必ずいるという保証がないため、これは危険なゲームである。
カチコチの技術論だけでなく、こうした物語の部分も多く、楽しく読める本になっている。
とりわけ、一通り価値評価の基礎を勉強したことのある人なら、技術論を読み飛ばしてもためになるのではないか。
