【書評】英EU離脱! 日本は円高に対処できるか

デフレが問題なのではない

デフレが問題の根源なのか。
確かに1990年代に日本が経験した資産デフレはそれ自体が大問題だった。
冷めた見方をすれば、バブルの巻き戻しであり正常化でしかないとの見方もできようが、それでも資産価格が急速に低下していくのはつらい経験だった。
高かりし資産価格を前提とした信用供与が一緒に巻き戻さざるをえなくなったためだ。
経済成長にとって重要な信用創造が阻害されたことは、それ自体が大問題であり、問題の根源であった。

しかし、アベノミクス開始前に議論されたデフレは資産デフレではなかった。
資産デフレが一服した後に残っていた消費者物価・企業物価におけるデフレであった。


デフレが問題の根源なのか。
日銀で調査局長などを歴任した門間一夫氏は
日本が経験した程度の緩やかなデフレが景気を悪化する可能性は乏しい。
と話している。
リフレ派の理論的支柱、内閣官房参与 浜田宏一イェール大学教授は
インフレ目標が達成できないこと自体は国民生活にとっていいこと
と認めている。
しかし「デフレだと雇用・生産の面が達成できない」ため、手段としてのインフレが必要と説明している。
アベノミクス後のデフレ・ギャップ縮小を見れば、これもまったく正しい議論だろう。


交易条件の改善が庶民に届かない

しかし、残念なことに雇用は失業率では測れない。
仮に企業が正社員を1人減員し派遣社員2人を採用すれば失業率は下がるかもしれない。
統計上の失業率は低下するし、デフレ・ギャップ推計も改善するのかもしれない。
しかし、そうした数字の改善が国民生活の幸せ向上を指すとは限らない。
不幸な変化は、平均賃金の数字に表れる。
安倍政権が経営者に賃上げを促すのは、この実態も踏まえてのことだ。

交易条件の改善を享受しろと説く野口氏は、この点について角度を変えて分析している。

「交易条件の改善は、確かに日本を豊かにしているのであるが、その利益は主として資産保有者に帰属し、労働者には帰属していないのだ。
ところが、資産保有者の消費性向は低いために消費が増大することにはならず、資産の蓄積をもたらすだけの結果に終わる。」

受け取るお金が多い金持ちにお金が回っても支出に回る金額には限度があるからトリクルダウンは限定的だ。
一方、受け取ったお金を使わざるを得ない貧乏人にお金が回ればトリクルアップが起こるのだが、残念ながら貧乏人にはお金が回らない。
ジョセフ・スティグリッツ教授は「トリクルダウンの経済学は機能しない」どころか、社会の格差を拡大させる誤りだと指摘している。

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