【書評】異次元緩和の真実

7月まで日銀審議委員を務めた木内登英氏が退任後の11月に上梓した本。
日銀の非伝統的金融政策について、理に適った蓋然性の高い出口戦略が提案されている。


2012年、日銀が黒田体制となる直前に審議委員に就任した木内氏が、この5年間の日銀の意思決定を振り返っている。
異次元緩和導入には賛成した木内氏が、その後、反対意見・執行部と異なる提案を重ねていく状況を克明につづっている。

日銀執行部の意見は私たちにもよく届く。
しかし、反対意見や異なる提案については、議事録へのわずかな記載・回数が多いとは言えない講演録でしか知ることができない。
この本には政策決定会合でマイノリティとなった木内氏の戦いが記録されている。
異次元緩和に明るくなく今からキャッチアップしたいなら、この本を読むとよい。
相当本音の議論がなされているので、金融政策のプラス・マイナスを合わせて理解できるはずだ。


ここでは、市場関係者が一番興味を持つであろう異次元緩和の出口について書かれた部分を紹介しよう。
木内氏は、現状の経済状況が良好であるとの認識の下、出口についてこう説いている。

金融市場あるいは金融機関の多少の混乱を招くとしても、即座に付利金利を+0.1%に戻すと共に、階層型当座預金制度を従来型の制度とし、さらに『イールド・カーブ・コントロール』を廃止するのが良い

つまり、短期側では日銀当座預金の一部にマイナス金利を課すマイナス金利政策をやめ、長期側では長期金利(10年)ターゲットをやめろというのである。
FRBやECBは非伝統的金融政策の出口の第一歩としてテーパリング(国債等買入れの減額)を選択した。
しかし、日銀は長期金利ターゲットによって10年金利を概ねゼロ%にペッグしている。
長期金利をペッグしながら、定額ずつのテーパリングはできない。
だから、日銀だけ異なる出口への第一歩を選択せざるをえない。

かわりに日銀ではステルス・テーパリングと呼ばれる棚ぼたの買入れ減額が進んでいる。
長期金利ターゲットを設定したら、年80兆円とした目途まで国債を買い入れなくてすんでいるのだ。
その意味で、図らずして日銀は出口を歩き出したと言えなくもない。
(木内氏は、ステルス・テーパリングは事前に企図されていたと考えている。)

それでも木内氏が満足しないのは、長期金利ターゲットの持続可能性・中立性等に問題があると考えるからだ。
つけ加えれば、長期金利ターゲットの廃止は、日銀がFRB・ECBと同様の出口のルートを歩む前段になるとの解釈もできる。

木内氏は丁寧に、その後の展開についてまで提案している。
この部分、本書の圧巻であり、これ以上のネタバレは遠慮しておこう。
興味のある人は原著を当たられたい。


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