【書評】世界経済、最後の審判(木内登英 著)

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『世界経済、最後の審判 – 破綻にどう備えるか』は元日本銀行審議委員の木内登英氏が著した、次に起こるかもしれない危機についての本。
審議委員として、異次元緩和導入には賛成したもののその後は慎重姿勢に転じた木内氏が、本書では明確に政策の問題点を指摘し、次に起こる危機の構造を予想しようとしている。(浜町SCI)


危機への対応がまた次の危機を準備する、といった循環論に立てば、深刻な金融危機が再び発生する可能性は、小さいとは言えない。
・・・
次に起こるかもしれない金融危機は、特定の震源地を持たない、世界同時型になりやすいのではないか。

木内氏が、次に来るかもしれない危機をこう予想している。
なぜ再発するのか、なぜ可能性が小さくないのか、なぜ「世界同時型」になるのか、が本書で論じられている。
世界経済・市場におけるキーワードを広くカバーし、論点を端的に示している。
雑誌記事のような読みやすさで、自然と先述の「なぜ」が理解されてくるような書き方だ。

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ネタバレを避けたいので、本論ではなく各論の中から一か所を紹介しよう。
それは、日本銀行によって行われている(株式)ETF買入れについての議論だ。
木内氏はこの政策の問題点を3つ指摘する。


  • 中立性: ETFを通すにせよ、日銀から個別企業に恣意的資金配分が行われる懸念。
  • 日銀の財務: 株価の上下で日銀の財務が左右され、損失となれば国民負担となる。
  • 市場機能: 本来は機能回復が目的だったが、依存するようなら逆効果となる。

こうした問題を述べた上で、買い入れてしまった状態からの出口戦略が述べられている。
市場・日銀・政府のショックをコントロールできるような3つの手法が挙がっている。

ただし、投資家は勘違いをすべきではない。
たった1つの例外を除いて、日銀によるETF保有は日本の株式市場の将来にとってマイナスの要因を及ぼす。
(もちろんプラスの要因がないとはいわないが、その恩恵の多くはすでに享受してしまっている可能性が高い。)
1つの例外は日銀または政府が未来永劫、買い入れたETFを持ち続ける場合だ。
この場合は、将来の株式市場に悪影響を及ぼさない。
しかし、この方向性がこれまでの日本政府のスタンスと矛盾することは明らかだ。
この例外を除けば、〇〇機構を作ろうが、〇〇信託を作ろうが、自社株買いで消化していこうが、需給を緩める要因になる。

日銀のETF買入れはリスク・プレミアムを圧縮しようという政策だった。
別に国債買入れによってリスクフリー金利も圧縮している。
この2つを足したものが割引率となる。
現在、安倍内閣が自慢するように、日本はもはやデフレではない。
そうだとすれば、正常化した経済においてリスク資産の割引率が人為的に圧縮されていることになる。
当然、これは資産評価上の下駄となる。
そうなるからこそ日銀はやっているのだろう。

下駄を履いた分は(上記の例外を除いて)将来返すことになる。
日銀が足元の株価を下支えすればするほど、将来リターンの見通しは悪化する。
高い発射台から下駄を取り払われた着地点に向けた軌跡でリターンを見なければならないからだ。
だから、ファンダメンタルズで投資するタイプの長期投資家は日本株に対して後ろ向きになる。
これはどの資産クラスにも共通する問題だ。
資本市場の長期的健全性が重要と考えるならば、日銀はそろそろこの問題の重大さに正面から向き合うべきではないか。


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