国内経済

【書評】マイナス金利-ハイパー・インフレよりも怖い日本経済の末・・・
2020年1月3日

マイナス金利政策が導入される直前の2015年末にBNPパリバ徳勝礼子氏が上梓した本。
サブタイトルは刺激的だが、本文を読む限り極めて礼儀正しく書かれている。
(この書評記事は当初2016年に浜町SCIコラムに掲載されたものです。未掲載の書評のうち現在でも有用と思われるものを厳選し再掲しました。)


私が今年読んだ本の中で一番驚き感心した本と言っていい。
著者はよくこうした本を書いたものだと思う。
出版社はよくこうした本を出版したものだと思う。

金融の素人がこの本を読んでも、正しく理解するのは難しいだろうと思う。
金融工学を専攻したか、金融機関で市場関連業務をかじったことがある人が読むのにふさわしいレベルだ。
いわば、通好みの書きぶりであり、これがとてもいい。

著書はボンドの世界の方のようだから、中身も礼儀正しく理論的かつ保守的であり、好感が持てる。
(私のような)エクイティの世界の人間のような過大視・論理の飛躍がない。
本文は一貫して論理的・客観的な分析・描写に費やされている。

興味深いのは、サブタイトルや見出しである。
こちらがなかなかセンセーショナルに書かれている。
想像するに、かなり編集者の嗜好が入っているのではないか。
冷静そのものの本文の裏にある著者の思い、意識の流れを、見出しが代弁しているように読める。

以前、このコラムでドル調達でのジャパン・プレミアムについて書いたことがある。
そこでは、ベーシス・スワップが深く関連していると述べた。
しかし、日本人の99.9%は人生の中でドル調達やベーシス・スワップの事務に当たることはなかろう。
だから、こうしたテーマについて肌身にしみた分析を行うのは難しいし、分析の結果を確信するのも難しい。
さらには、こうした分野について程よい書きぶりの書籍はなかなかない。
本書は、絶妙の専門性を持った本と言える。

奥付を見て驚いた。
あっと言う間に再版に次ぐ再版を重ねている。
相当売れているようだ。
こんな通向けの書籍がたくさん売れるとは、世の中の興味の高さがうかがわれる。

3箇所、興味深い言及を紹介しよう。
まずは、低金利政策の根源的な弊害についてだ。

長期化する低金利政策は、低収益プロジェクトを温存し続けるという点で成長率を押し下げる。

だからこそ「低金利による景気刺激策は時限措置でこそ効果がある」のだ。
金利を無理やり引き下げれば下げるだけ、一時的には経済が刺激され、資産価格も上がる。
しかし、それは将来目標とする経済成長率もまた引き下げかねないのである。

次に、市場関係者ならではのファクトの指摘。

(欧州の国際機関・準公的銀行発行の仕組債に)代わって現在使われているのは何と日本国債である。
デリバティブ市場はドル・ベースで上乗せ金利が最もワイドなのは日本国債であること、つまり国債は既に暴落してしまっていることを知っている。

何のことを言っているかと言えば、先述のベーシス・スワップとジャパン・プレミアムのことだ。
現在、米国勢は米国債を買うより《日本国債+ドル・円ベーシススワップ》でシンセティック・ポジションを作った方が恐ろしく利回りが改善するのだ。
サブプライム/リーマン危機前の欧州機関から日本国債にバトンタッチしたという書き方は、相応の未来を示唆したものだろう。

著者は、ジャパン・プレミアムへの危機感の欠如に警鐘を鳴らす。
確かに、現状のジャパン・プレミアムの主因は日米金融政策のダイバージェンスであろう。
しかし、だからといってソブリン・リスクと無関係ともいいきれない。
著者はこう書いている。

ギリシャと同じ形では日本国債暴落は起こりにくくとも、代わりに通貨円の暴落はあり得るし、市場はベイシス・スプレッドの拡大という形で、日本の信用リスクを確実に織り込んでいる。


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