【書評】「追われる国」の経済学(リチャード・クー著)

『「追われる国」の経済学-ポスト・グローバリズムの処方箋』は、リチャード・クー氏による先進国の経済政策への提言の本。
前著『バランスシート不況下の世界経済』の考えをさらに発展させ政策提言した、600ページを超す大作だ。


多くの先進国の政策論議は、このような変化が不可逆で、抜本的であり、しかも経済の発展段階の移行に起因していることを見逃している。


クー氏は、先進国の政策論議に経済の発展段階への留意が欠けていると出張している。
先進国が「追われる局面」に移行すると、金融政策の有効性が失われ、財政政策が有効となると主張する。
一方の現実では金融政策依存が進み、財政政策を過度に忌避する風潮にあると嘆いている。

クー氏は経済の発展段階を労働市場から見て3つの段階に分けている。

  • ルイスの転換点(LTP)以前: 賃金は増えず、資本家が有利。
  • LTP到達後、新興国との競合まで: 賃金が上昇する「黄金期」。
  • 「追われる経済」: 新興国との競合によりある賃金水準以上では企業が海外移転を選択するため、賃金が増えない。

クー氏は、それぞれの段階にはそれぞれ適した政策ミックスがあるといい、先進国は現在第3段階に入っていると指摘する。
例えば、黄金期ではインフレが問題であるのに対し、追われる経済では沈静化するという。
黄金期には中立金利も高く、追われる経済では低いという。
こうした変化に応じて政策も選択されるべきという主張だ。


結論の部分はネタバレになるのでここでは紹介しない。
大作であり、本論以外にも機知に富んだ議論が多く含まれている。
また、とても読みやすい文章であるので、大作に怖じることなく読んでみるとよい。
斜め読みでも十分楽しめるはずだ。

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クー氏の議論は説得力のあるまっとうなものだ。
先進国経済が不可逆な発展プロセスを進んでいるのは間違いない。
しかし、一方でそうした見方から「This time is different.」(今回は違う)という投資の世界のタブーが思い起こされるのである。
本当に発展段階とはたった3段階の単純なものなのか。
「追われる経済」とは持続する段階なのか、再び大きく変化しうるものなのか。
つまり、《今回もやっぱり同じ》という結果も多く起こりうるのではないか。


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