国内経済 投資

「リスク・オフの円安」になる時:佐々木融氏
2020年1月22日

JP Morganの佐々木融氏が、ドル円相場、とりわけ円相場について大胆な予想あるいは心配を書いている。


今後、ドル/円相場が予想以上の大幅な動きを見せるとき、それは円高方向ではなく、円安方向になる可能性の方が高いのではないかと考えている。

佐々木氏がReutersへの寄稿で書いている。
同氏の1年あまり前の予想から反転したように感じられ、興味深い。

こうした意見を読む時、いつ「大幅な動きを見せる」のか、「大幅」とはどの程度を想定しているのか正しく理解することが重要だ。
このうち《いつ》については、文脈からは、例えば「世界経済が深刻なリセッションに陥」るような場合、つまりリスク・オフの局面と読める。
現在の市場のコンセンサスは《リスク・オフでは円高》というものだろうから、それと反対方向の動きを予想しているわけだ。
《リスク・オフの円高》、あるいはリスク・オフのドル高、ユーロ高は、リスク・オン時のキャリー・トレードの巻き戻しを意味する。
円とドルの間では円が調達側になるため、ドル円では《リスク・オフの円高》になる。

佐々木氏は《リスク・オフの円高》とはならないと考える理由を書いている。

以前とは異なり、国内に資金を戻すことを考えるハードルはかなり高くなったい可能性がある。
なぜなら、結局はリターンが得られる投資先がないからである。

日本の投資家がリスク・オフで海外資産を引き上げたとしても、国内に投資先があるとは限らない。
ポジションを閉じることでリスク・テイクを縮小することにはなるが、結局早晩イールド・ハンティングを再開せざるをえない。
政策面も手詰まり感が強い。
「世界経済が深刻な後退局面」となっても、日銀にはほとんど金融緩和の余地はない。
得意の財政政策が講じられるのは必定だ。

もし、政府が、日本の企業や投資家よりも先に景気後退の恐怖に耐えられなくなり、財政支出を大幅に拡大し、大盤振る舞いを始めたとき時、それに気が付いた企業や投資家は、海外への投資資金を日本に戻すことをしないかもしれない。
無尽蔵に財政支出を拡大して、日本に住む人々の手元に節操なく紙幣が配られるような状況となれば、円の根本的な価値は低下する。

メインストリームの職業的予想者がこうした恐ろしい予想を述べるのはやはり珍しい。
このシナリオが実現するなら、日本で高いインフレが進み、急激な円安が起こるのだろう。
もちろん、円安になって外需(の数量)が増えるのなら、どこかで均衡するはずだ。
しかし、輸出産業の利ザヤはともかく、円安で輸出数量を増やすのはそう簡単ではない。
輸出の為替感応度が低下しているからだ。
かなりの円安が必要となり、かなりの輸入物価上昇を引き起こすかもしれない。
円安で輸出を増やすという経路は、1つ間違えると、国内で投入される要素(例えば労働力)を安売りするということになりかねない。

FPでは昨年10月本稿と同じタイトルの記事で、円安を楽観すべきでないと書いた。
しかし、そこでの時間軸はこうだ:
「本当の心配は、次の景気後退期に円高が進まなかったらすればいい。
そうなると、日本人(企業も個人も)のお金の最終的なあり場所が国外に移る可能性が確認されてくる。」
つまり、次の景気後退期に円安が急激に起こる可能性については高くないと見ていたわけだ。
ところが、今回、佐々木氏は次の「世界経済が深刻な後退局面」で急激な変化が起こりうると書いている。

こうした記事を書くと、リフレ支持者の一部やMMT支持者から《危なくなったら引き返せばいい》という意見が出てくる。
もちろん、本当に引き返せるなら大丈夫なのだが、ここには2つの問題がある。
1つは、その時点の政治・経済的状況で引き返せなくなる可能性。
そしてもう1つは、佐々木氏の指摘するような可能性があるならば(可能性はあるとFPは信じているが)、意外と引き返すべき時点が近づいているのかもしれないということだ。

仮に、回避すべきミンスキー・モーメントのような時点を正しく察知できたとして、実際に引き返すことができたとしよう。
日本では国家債務が膨張する中で、金利はゼロ。
引き返すことがハッピー・エンドを生むことではないのは明らかだ。
金利上昇を容認すれば政府やゾンビ企業の財務が行き詰まる。
結局引き返すべきとわかっていても引き返せない可能性が無視できない。

いやいや早合点すべきでない。
佐々木氏が書いているのは、そんな重い話ではないのかもしれない。
高々ドル円で120円を超えるぐらいの話かもしれない。
前回、日銀が円安に事実上の危機感を示したのが125円程度だから、その当たりまでなら心配する必要もないかもしれない。

佐々木氏が想定する「大幅」とはいったいどの程度のことだろう。
同氏は、前回、金融・財政政策がともに伸び切った時代を引いてこう書いている。

深刻な世界経済の後退というリスクオフ状態になっても円が買われず、逆に円が一段と売られ、価値が大きく低下することがあるかもしれない。
ドル/円相場はたかだか約70─80年前に、現在と似たような経験を通じて、1ドル4円台から360円に急上昇している。


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