野口悠紀雄氏:すり替わる日銀

野口悠紀雄

早稲田大学ファイナンス総合研究所・顧問 野口悠紀雄氏が、日銀にあいかわらず厳しい批判を浴びせている。
この激しい怒りの背景には、「権威」を失いつつある日銀の立ち居振る舞いへのいら立ちがあるようだ。

権威なきエコノミスト集団

野口氏は9月の日銀による「総括的な検証」における自省のあり方、長期金利ターゲットなどの新たな金融政策のフレームワークについて痛烈な批判をしている。
死に体の敵をここまで攻撃するのはなぜか。
週刊ダイヤモンドへの野口氏の寄稿にその理由が垣間見える。
野口氏は

「政策当局の中には、権力を持つものと、権威を持つものがある。」

と指摘する。
多くの中央官庁は許認可権という権力を持つが、日銀やかつての経済企画庁は権威によって「経済をけん引しようとする政策主体」だという。
権威による主体にとって不可欠なのは、当たり前のことに権威だ。
野口氏は経済企画庁の失敗を回顧する。

「『経済白書』が『経済財政白書』になり、政府の政策を無批判に擁護するようになって、権威が失われた」

野口氏は、今まさに日銀が二の舞を演じていると懸念を深めているのである。
政策の正邪だけでなく、その立ち居振る舞いを見て、人々は権威の有無を感じ取るのではないか。

日銀ウェブページに付された「注」

野口氏は面白い現象を指摘している。
日銀が啓蒙のために設けているウェブページ「長期金利の決まり方……将来の『予想』が大事」の変遷についてである。
このページは、長期金利の成立要因を純粋期待仮説の考えから説明したものであり、極めて正統的な内容が書かれている。
最終改訂は2006年1月である。

このウェブページ本文の直前に最近、注が加えられているのだ。

日銀 長期金利の決まり方

「以下の内容については、直近の改訂から相応の時間が経過しているため、現在、アップデートした上で、『教えて!にちぎん』に統合する方向で改訂中です。」

なぜ、こんな注が加えられたのか。
野口氏は、ページの内容が「長期金利を動かすのは難しい」ことを示唆していたと指摘する。
これは、《長期金利は市場が決めるもの》という異次元緩和以前の市場観とも一致する。
ところが、新たな金融政策のフレームワークでは、イールド・カーブ・コントロールの一環として長期金利ターゲットが導入されている。
これは日銀のウェブページの内容と相反する。
野口氏は

「これまでの説明が葬られ、『長期金利のコントロールが可能』という説明にいつの間にかすり替わってしまうのでは」

と心配している。
仮にそうしたことが起これば、日銀の数少ない武器「権威」がますます失われていくと危惧しているのである。

(次ページ: 「失墜」か「進化」か)