翁邦雄:岩田副総裁が辞めないワケ

日本銀行券

日銀が20-21日に予定している「総括的な検証」について、日銀で金融研究所所長などを歴任した翁邦雄 京都大学教授がインタビューを受けている。
正統的かつ堅実な議論が進められており、興味深い点を紹介しよう。

このテーマについては、多くのエコノミストが様々な意見を述べており、読者の側は食傷気味だろう。
そこで、一番重要なところと、ちょっと変わったところだけに絞って紹介する。
引用元の日経記事はより総合的な内容になっており、一読をお勧めする。

意味のないマネタリー・ベースを増やしたワケ

まずは、黒田総裁が試みた政策の本質について思い出そう。
翁教授は「今の枠組みが難しいのは、人々の期待に頼る部分が大きいところだ」と分析している。

異次元緩和は、マネタリー・ベースを増やすことでインフレ誘導をしようという政策だった。
問題はその経路である。
理論的に言って、ゼロ金利においてはマネタリー・ベースが経済・物価を刺激することはない
これは、はるか昔から知られていたことであり、リフレ派もこの点は承知していた。
ではなぜ、それでもマネタリー・ベースを増やそうとしたのか。

それが、期待に働きかけるという経路だった。
理論的だろうがそうでなかろうが、マネタリー・ベースを増やすことで市場がインフレの到来を誤解すれば、実際にインフレになる可能性はあった。
それに賭けたのが異次元緩和であった。
結果は、期待がそもそも生まれなかったのか、期待が自己実現しなかったのかわからないが、実を結ぶに至らなかった。

期待に頼ったことが自身を縛る

翁教授は、こう語っている。

「マネタリーベースを増やして市中にお金があふれればインフレになるかもしれないという期待に働きかけているだけなので、総括でも期待をしぼませてはいけないという判断が働くはずだ。
政策に限界があってもそうと言えないところに今の日銀の苦しさがある。」

これこそ、黒田総裁が《早期に2%》の目標を下ろせない理由なのだ。
《早期に2%》(当初は2年程度で2%)という目標を堅持することこそ、市場の期待をアンカーする主たる手段であった。
それを下ろすことは、期待に働きかける異次元緩和をあきらめるに等しいばかりでなく、政策の理論的中核を否定することになる。
目標に固執すれば、今度はその目標の蓋然性の低さから、期待を生み出すことができないで終わる可能性が高い。

(次ページ: 異次元緩和の評価は出口で決まる)