水野温氏:日銀のおごり

日本銀行

元日銀審議委員の水野温氏が、日銀の「総括的な検証」にもとづく新フレームワーク「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を「はっきり言って名前負け」と酷評した。
「大したツールもないのにすごいことをコミットした」ような印象を与える演出を笑っている。

だんだん長くなっていく日銀の金融政策の名前が愉快だ。
だんだん長くなっていくことこそ、当初から黒田総裁が戒めていた「政策の逐次投入」を示すものだが、そうした点への率直で十分な反省が示されないから、世の中には怒り出す人が出てくる。

「総括的な検証の結果、この枠組みになったというが、どうしてそうなったのかは説明されていない。
この政策をやることでどういう波及経路で経済に影響するか、オーバーシュート型コミットメントをやればどうして物価上昇率が2%になるのか、為替の安定はどうするか、というのが見えない」

手柄も少なくなかったはずなのに、謙虚さが足らずにすべてが台無しになるのだ。
この醜く長たらしい名前について、水野氏がReutersに「名前負け」と評したのも無理はない。

市場の一番の関心は長期金利がコントロール可能なのかであろう。
世界でリスク・オフの流れが起こった時、下がった金利を上昇させるのか。
何かの拍子に長期国債が売られた時に、金利を《とりあえず0%近傍に》押し下げておけるのか。

「長期金利、ましてイールドカーブをコントロールできるという発想は『日本銀行のおごり』だ。
仮に名目長期金利をコントロールできても、期待インフレ率は変動するため実質長期金利も変動する。
イールドカーブはあくまで結果で、適切な長期金利水準やカーブの形は景気変動に応じて変わる。
本来はマーケットが発するメッセージを聞くのが中央銀行。
長期金利の決定権は債券市場にできるだけ早く戻すべきだ」

昨日10月3日、長期金利はマイナス0.08%近辺にあった。
すでに0%近傍に誘導するという話とは大きくずれている。

最近、米国で均衡利子率の議論が盛んだ。
経済の潜在成長率が低下し均衡利子率が低下している。
金利による景気刺激は、市場金利を均衡利子率より低い位置に誘導することで実現する。
均衡利子率が低下すれば、政策金利もより低くおいておくべきだ。
だから、利上げはするな、といった具合だ。

同様の議論はもちろん均衡利子率が上昇した場合にも起こる。
長期金利ターゲットでの景気刺激を考える場合、長期の均衡利子率の変化とともに柔軟に長期金利の目標値を変化させなければならない。
この長期金利(名目金利)が実質金利と期待インフレ率に分けて考えなければならないのは言うまでもない。
実質金利が動いても、期待インフレ率が動いても、理論的には長期金利ターゲットの変更が必要になる。

さらには、為替相場にも目配りをしなければいけない。
為替の変動が短期的なものだとしても、各国間の金利差が為替に大きく影響するのも事実だ。
他国で実質金利が変動する場合には、長期金利ターゲットはそれを勘案せざるをえないだろう。

日銀は、当面長期金利を0%程度に誘導するとして長期金利ターゲットをスタートした。
しかし、この0%についての説明はなかった。
とにかく新たな試みを早くスタートさせたくて、導入当時の水準をターゲットとしたのだろう。
その点を強く批判するわけにはいくまい。

日銀は今後、目標とするイールド・カーブについて説明が求められるようになろう。
均衡利子率、期待インフレ率、内外実質金利差についてどのような想定をし、どういう計算式でターゲットを決めていくのか。
おそらく求められても答えまい。
そして、いつものように憶測合戦が始まり、市場の暴れ馬に悩まされることになるのではないか。