植田和男教授:マイナス金利の物理的・経済的限界

日本銀行

元日銀政策審議委員の植田和男 東京大学教授がマイナス金利政策の限界について論じている。
日本のマイナス金利深掘りの限界はユーロ圏よりも浅いところにあると推測している。

植田教授は証券アナリストジャーナルへの寄稿で、マイナス金利政策の限界を2つの側面から検討している。

物理的な限界

マイナス金利が深掘りされ、債券・預金など資産にかかるマイナス金利の幅が大きくなれば、保有者は現金保有を考えるだろう。
「物理的な限界」とは「大量の現金を保蔵するコスト」である。
欧米などでは現金を廃止し電子マネー化すれば、現金にもマイナス金利を付すことが可能との議論がある。
しかし、植田教授はこうした議論に懐疑的だ。

「このような対応は貨幣制度をめぐるより大きな論点との関連で容易でないように思われる。
現金の名目価値が減価し続ける、あるいは減価率も経済状況次第で不透明となった場合に、人々はこれまでと同じように政府貨幣を利用し続けるだろうか。」

植田教授は、むしろ金・外貨・仮想通貨へシフトするリスクの方が高いと推測している。

経済的な限界

マイナス金利政策が金融機関の財務に悪影響を及ぼすことはすでに常識となりつつある。
「経済的な限界」とは、金融安定を脅かさずに済む限界を指している。
植田教授は、経済的な限界の方が物理的な限界より手前にある可能性を示唆している。

「金融セクターへの影響しだいでは、NIRP(マイナス金利政策)の物理的な限界に到達する前に、NIRPのネットの効果が負となる可能性も排除できない。」

限界はどこに

では、具体的にこれら限界はどのあたりにあるのだろう。

  • 物理的な限界: ECB -0.4%、デンマーク-0.65%、スイス-0.75%、スウェーデン-1.25%の例を引き、「こうした水準よりも深いと言えそう」と推測している。
  • 経済的な限界: 日本の銀行は以前から貸出金利が低かったこと、債券譲渡益が枯渇しつつあること、低金利の支出刺激効果が限定的であることなどから、日本におけるマイナス金利の経済的限界はユーロ圏よりも浅いと推測している。

つまり、日本のマイナス金利はまだ深掘りできる余裕があるが、欧州ほどには深掘りできないという予想である。

(次ページ: ソロス・チャートとヘリコプター・マネー)