加藤出:デンマークでうまくいくワケ

加藤出

東短リサーチの加藤出氏が、マイナス金利政策を採用するデンマークを日本と比較している。
デンマークにはマイナス金利が歓迎される要因がいくつかあるが、日本がそうした要因を取り込むのは容易ではないようだ。

加藤氏は、デンマークでマイナス金利政策が比較的好意的に受け止められていると指摘する。
デンマークのマイナス金利は0.65%。
日本の0.1%より相当に深い。
さらに、金融以外の企業では、銀行預金でもマイナス金利の適用があるのだという。
それでも拒絶反応が小さくなっているいくつかのポイントが紹介されているので、内容を見ておきたい。

  • 銀行の競争: 過当競争がなく、マイナス金利のコストを貸出金利に転嫁できる。
  • 高福祉: 金利低下でも不安に感じない。
    「『将来が不安だから預金する』という発想がない」。
  • 若い: 金利低下の恩恵を受ける若い世代が多い。
  • キャッシュレス: 決済関連の役務収益など銀行が収益多様化を実現している。
  • 手厚い失業保険: 銀行のリストラが容易。
  • 短い平均労働時間: 子育てとの両立が可能。
  • 高い1人あたりGDP: 購買力平価ベースで日本より20%も高い。

加藤氏の発言・著作の特徴として、海外経済のつぶさな観察が上げられよう。
結果であるマクロの数字を議論するだけでなく、その背景にあるミクロな現象にも目を配る。
デンマークの観察もそうした作法の一例だ。

日本ではマイナス金利を白眼視する風潮があるが、主犯はマイナス金利ではあるまい。
量的緩和がすでに長く行われていて、さらにマイナス金利が導入された。
これが副作用を大きくしてしまったと見るべきだ。

ゼロ金利下でのマネタリー・ベース拡大に蓋然性の高い理論的裏付けがないことは世に認められるところとなった。
最近の日欧の経済を見れば、実証的な証拠が揃ったと言えるだろう。
そうした認識を是とするなら、主犯はマイナス金利ではなく量的緩和と言えるだろう。
日銀が導入したイールド・カーブ・コントロールで、金利引き下げがマイナス金利、長期金利押し上げがテイパリングによると想定されているのも傍証であろう。

マイナス金利は、あきらめるには早すぎる。
理屈のない量的緩和で3年粘ったのだから、マイナス金利を1年足らずであきらめる手はない。
では、副作用をどう和らげればいいのか。
そのヒントが加藤氏の観察にあるのだろうが、日本ですぐに実現できそうな条件は多くない。

  • 銀行の競争 → 統合等で過当競争がなくなるまでには時間がかかる。
  • 高福祉 → 社会保障改革が必要だが、過程では逆に厳しい経済環境に。
  • 若い → 若い移民の受け入れが現実的だが、欧米と似た問題が発生する可能性も。
  • キャッシュレス → 現金使用を完全に置き換えないと社会全体でのコスト増に。
  • 手厚い失業保険 → 税・社会保障料の負担が増え、短期的には経済の逆風に。
  • 短い平均労働時間 → 意識改革により実現可能性あり。
  • 高い1人あたりGDP → 容易には解決不可能。

財政再建・構造改革という面で遅きに失した感がある。
政府もやれることはやっているだけに道は険しいようだ。