ローレンス・サマーズ:利下げの余地はない

ローレンス・サマーズ

サンフランシスコ連銀John C. Williams氏が公表した論文を受けて、ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、FRBの金融政策に注文をつけた。
インフレ目標を高め早期に経済を正常化しないと、次の停滞期を乗り切れないとの主張である。

サマーズ氏の主張を見る前に、ウィリアムズ総裁の論文の結論部分を紹介しよう。

「経済学はめったに水晶玉のようにお告げをくれたりしない。
しかし、今回については、将来を今予見しており、継続的な低い中立実質金利に関する課題に取り組む機会を与えてくれている。
インフレ・ターゲティングの主たる様相を徹底的に見直す必要があり、低い中立金利による阻害を緩和する努力をすべきだ。
しかし、金融政策には影響が及ぶ限界がある。
各国の中央銀行は、責任を分担すべき時にさしかかった。
金融政策にはできることに限界があり、実際のところ、そうあるべきなのだ。
財政政策ほかも、経済の安定をもたらす条件を実現するため、責任を分担すべきだ。」

ウィリアムズ総裁は、「次の嵐を座して待ち、いい結果を願うか、今それに備えて準備万端にしておくか」の二者択一だと論文を終えている。
金融政策の重責を担う者としての率直な意見が述べられているもので、金融政策だけでは対処できないとの吐露は、現在のコンセンサスに近い主張だろう。
中立金利が低下したとの主張、金融政策への過度の依存が不適切との主張は、「趨勢的停滞論」を軸としたサマーズ氏の主張と共通のものだ。

中立金利の低下については、最近ベン・バーナンキFRB前議長も指摘していた。
FRB自身の中立金利見通しがじりじりと下方修正されてきた中で、金融政策が十分に緩和的でなかった・ない可能性を指摘していた。

サマーズ氏はWashington Postへの寄稿の中で、低下してきた中立金利について、正常化する可能性と同様に、低下を続ける可能性が存在すると考え、理由を述べている。

  • 金利にはヒステリシスがあり、今の金利低下が将来の中立金利の低下を呼ぶことがある。
    足元の低金利が、需要の先食いを引き起こし、将来の需要低下を生むためだ。
  • 主たる構造要因(格差拡大、労働力増の減速、資本財価格の低下、生産性向上の鈍化、先進国からの資本流出など)が継続する傾向を示している。
  • 低金利が長く続くとの期待が、ターゲットとなる預金者の支出を減らし、金融仲介を阻害する。

趨勢的停滞を予想するサマーズ氏からすれば、ウィリアムズ総裁の金融政策についての考えは生ぬるく映る。
この4年の間に「(インフレ)目標を高くするメリットは増加し、コストには変化がない」と考えるからだ。
基調的にある水準のインフレを求めるなら、もっと高めの目標を設定すべきとの主張である。
さらには、早期に経済を正常化しないと、次に来る停滞期になすすべを失ってしまうと危機感をあらわにしている。
サマーズ氏は、

「景気循環についての人類の知見から予想するに、先進国世界において数年のうちに景気後退局面がやってくる可能性が極めて高い。
通常、潜在的な不況への対応に必要となる利下げを4%とすれば、とてもそんな余地は存在しない。
我々の世代にとって、この点が金融政策上、そしてマクロ経済政策上の主たる課題である。」

とし、今週のジャクソン・ホールでのイエレンFRB議長の講演を注目したいと結んでいる。