スティーブン・ローチ:大恐慌やリーマン危機前に似ている

スティーブン・ローチ

元モルガン・スタンレー・アジア会長Stephen Roach氏が、現実を認めない日米の中央銀行を批判した。
誤った政策を繰り返す現状を大恐慌のあった1930年代やサブプライム/リーマン危機前の状況に似ていると指摘した。

ローチ氏はProject Syndicateで日米の非伝統的金融政策を振り返り、いずれの政策も肝心の実体経済との関係性を喪失している点を問題視している。
日米金融政策が実体経済に対する牽引力を失う中、資産価格ばかりが「異なる物語」をたどっている。
金融政策による超低金利への釘付けと膨大な流動性注入によって、株も債券も価格は高止まりしている。

「(実体経済と資産価格の乖離は)苦しいバランスシート不況の後遺症を反映するものだ。
この後遺症においては、資産価格バブルによって人為的に押し上げられた総需要はバブルが潰れるとともに崩壊する。
そして、レバレッジ過多で資産に依存した米消費者と日本企業の慢性機能不全をもたらす。」

こうした機能不全の状態にあるため、ゼロ金利政策をとっても経済が刺激されないのも当然だとローチ氏は言う。
そして、現在の状況が流動性の罠の中で「暖簾に腕押し」を繰り返した1930年代に似ていると指摘した。
ローチ氏は、日米の中央銀行が厳しい現実から目を背けていると批判する。

  • 日銀: 金融エンジニアリングへの偏向(ローチ氏は日銀を「錬金術師」と喩えている)
  • FRB: 政策金利正常化を再度延期した

ローチ氏の両中央銀行に対する見方は厳しい。
そして、強い危機感をにじませる。

「大昔に弾薬は尽きているのに、中央銀行はかつてのツールが危機を起爆するのに果たした破壊的な役割を認めるかわりに、愚かにも新たなツールを生み出すことに注力している。」

市場は金融緩和にあらがうことはできず、あらゆる資産価格(株・債券、長期・短期、為替など)は操作されていく。
ローチ氏は、こうした資産価格上昇が資産効果を生むどころか、経済に深刻な問題を及ぼしていると主張している。
先進各国が喉から手が出るほど望んでいる良質な投資を阻害しているという。

「結果、所得制約的な環境下で

  • 貯蓄する経済主体は損をし
  • 資本コストは抑圧され
  • 無謀なリスク・テイクが助長される。

これは、生産性向上のための投資が至上命題とされている経済にとっては特に危険な状況だ。
そして、2008-09年の世界金融危機を生んだ、資産ベースが過剰な環境と似通っている。」

リーマン危機をレバレッジという軸で回顧すると、米民間セクターの過度なレバレッジの反動ととらえることができる。
事態収拾のため、FRBは自身がレバレッジを高めることで民間のデレバレッジを支援してきた。
この目的はある程度達成されたが、FRB自身の正常化を目指す段になると、状況が逆戻りするリスクに直面することとなった。
日銀はかなり遅れてFRBを追い、今では量的緩和・マイナス金利・長期金利ターゲット・ETF買入れまで品ぞろえする非伝統的金融政策の百貨店になった。
それぞれの政策に巻き戻しがないのなら素晴らしいのだろうが、それを信じる人は皆無だ。
せめてもの救いは、ほとんどの日本人がまだ量的緩和の巻き戻しが不要になる可能性(ヘリコプター・マネー)を信じていない点だろう。