スティグリッツ:新自由主義者はセラピストに診てもらえ

ジョゼフ・スティグリッツ

ジョゼフ・スティグリッツ教授が、グローバリゼーションが世界を幸福にできていない理由を論じている。
新自由主義を批判し、グローバリゼーションの果実を広く行きわたらせるための強力な再分配の仕組みが必要と説いている。

グローバリゼーションが先進国を襲う

スティグリッツ教授がProject Syndicateに寄せたコラムは、15年前の著書の話から始まる。
15年前、教授は『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』の中で、途上国で高まるグローバリゼーションへの反対の動きを論じた。
不思議なことに、グローバリゼーションで幸福になると説明されてきた途上国の人々が、グローバリゼーションに反対していたのだ。
ところが、いつの間にか、反対の声は先進国でも大きくなっている。
政治家や多くのエコノミストはグローバリゼーションで「みんな幸せになる」というが、なぜこうも忌み嫌われるのかと教授は問題提起する。

スティグリッツ教授によれば、新自由主義のエコノミストの中には、実際幸せになっていると主張する人がいる。
ただ気づかないだけだ、というわけだ。
そうしたエコノミストは、これは経済の問題ではなく、心理的なものだと主張する。
しかし、教授は

「所得のデータが示唆するのは、セラピストの助けがいるのは新自由主義者の方だということ。」

と斬って捨てる。
実際に、格差拡大はデータにも表れている。
世界の1%だけが多くを得て、先進国の中・下級の労働者階層が多くを失っている。
グローバリゼーションはその一因になっている。

自由貿易が格差を拡大するメカニズム

スティグリッツ教授は、格差拡大のメカニズムを解説する。

「(ほとんどの新自由主義的な経済分析の基礎となっている)完全市場の仮定の下では、自由貿易は世界中の非熟練労働者の賃金を均一にする。
財の貿易は、人の移動の代替なのである。
中国から(非熟練労働者を多く要する)財を輸入すれば、欧米での非熟練労働者の需要は減ってしまう。

この力は強く、輸送費がなく、欧米に技術のような他の競争優位がなければ、最終的には賃金の差が完全になくなるまで中国の労働者が欧米に移入したのと同じ効果を及ぼす。」

TPPが日本のホワイトカラーを追い落とす

スティグリッツ教授の話は残念ながら欧米に注目している。
少し日本の話をしよう。
仮にTPPが発効したら何が起こるか。
日本の非熟練労働者の賃金が、アジアの新興国のそれに一致するまで下がっていくということを意味する。

問題なのは、「非熟練労働者」である。
すでにブルー・カラーでは、日本でも勝負はついている。
熟練が求められない低賃金労働の職場では、日本人はすでに劣勢だ。
では、ホワイト・カラーの分野はどうか。
日本のホワイト・カラーのいったい何割が《熟練労働者》と言えるだろうか?

(次ページ: 政治家の沈黙とウソ)