【書評】マイナス金利政策 – 3次元金融緩和の効果と限界

日本銀行

元日銀副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏らによるマイナス金利についての解説と論考。
マイナス金利だけでなく、非伝統的金融政策全般にわたる広範なテーマが扱われている。

金融政策に関わるバズ・ワードについて網羅的な解説がなされており、金融政策の初心者だけでなく熟練者にとっても有用な解説書となっている。

マイナス金利政策とは非伝統的金融政策だろうか。
伝統的な利下げをさらに進めたものと考えれば、伝統的政策とも言える。
しかし、マイナス金利政策にはやはり非伝統的な性質がある。

  • 金利がゼロという特異な値をまたぎ、金利の受け払いが逆転する。
  • 政策金利をマイナスにするには相応の理由がある。

前者はゼロ金利制約の話であり、後者は自然利子率の話である。
本書はその両方について詳述しているが、特に後者は金融政策の大きな絵を見逃さない上で重要なものと言える。
ローレンス・サマーズが掘り起こした趨勢的停滞論を紹介しつつ、自然利子率の低下を示す。

日本経済研究センターは日本の自然利子率がマイナス圏にあると推計している。
ならば、実質金利をそれより低くしなければ金融は緩和的にならない。
期待インフレ率がさほど大きくないなら、名目金利(=実質金利+期待インフレ率)もマイナスである必要に迫られるかもしれない。
マイナスの必要に迫られているのが、まさに現状なのだ。
そして、マイナス金利から脱出するために必要なのは自然利子率の上昇であり、日本経済の潜在成長率の改善なのである。
言うまでもないが、潜在成長率の改善は経済安定化政策(金融・財政政策)で実現できるものではない。

本書は、マイナス金利の金融機関・日銀の財務への影響、ヘリコプター・マネー、趨勢的停滞論、キャッシュレス社会などへと議論が進む。
いずれも網羅的にバランスのとれた議論がなされている。
一方、少々もの足りないのは、羅列的な記述にとどまっている点だろうか。
たとえば、結文はこうだ。

「マイナス金利をはじめ、『鏡の世界』での不思議な現象のように語られる今の状況こそ、実は定常に保たれた世界なのかもしれない。
そんな疑問を私たちに投げかけてくる。
しかし、『鏡の国』はあくまで『異次元の世界』であるとしたら・・・。
アリスはやがて夢から覚めるが、私たちは自力で鏡の向こう側に戻らなければならない。」

マイナス金利/ゼロ金利は果たしてNew Normalなのか。
それとも、いつかOld Normalに戻る時が来るのか。
戻るとしたら、それはいつなのか。
著者らは方向性を匂わしながらも明確な結論を提示しない。
しかし、それこそ読者が元日銀副総裁から一番聞きたいことなのだ。