野口悠紀雄氏:自由貿易は双方向

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早稲田大学ファイナンス総合研究所・顧問 野口悠紀雄氏が、自由貿易を求める限り農産物の関税を撤廃すべきと主張している。
純粋に正論を唱えたものであるが、これが人間の世界でどう作用するかは別の問題だ。

「一方において自動車を輸出するために『自由貿易が必要』と言い、他方において国内農業を保護するために農産物に高率の関税を課すのでは、全く矛盾したメッセージを世界に向かって発することになる。
それは、信頼性のあるメッセージとは受け取られないだろう。」

野口氏が週刊ダイヤモンドへの寄稿でこう書いている。
まさに正論である。

多くの国が自由貿易を唱える時、主たる目的は自国の輸出を促進することだ。
本来、自由貿易の恩恵とはフェアな輸出とともに安い輸入もあるはずなのだが、たいていは前者、つまり輸出産業や国内生産者の立場が優先されてしまうのだ。
自由貿易を唱え続ける米国がトラックの輸入に関税を課していることもその一例だ。
そのあたりの事情を心得ている人なら、いろいろな政府が自由貿易を唱える時、それが公正性を目指したものとは受け取らないだろう。
まさに野口氏の指摘どおりのことが起こっているのだ。

自由貿易については(他の尖鋭な問題と似て)3種類の人種が存在する。

A) 自由貿易の理論を正しく理解し、正論を述べる人。
 他の人から見ると、売国奴のように見えてしまうことがある。
B) 欺瞞を知りながら、「自由貿易」を唱えて輸出促進に努め、輸入については頬かむりする人。
 実権を握っている層に多い。
C) 無知ゆえに欺瞞とも気づかず、都合のいい時だけ「自由貿易」・反自由貿易を唱える人。

野口氏はAであり、その正論は徹底している。

「消費者の立場からすれば、輸入が自由化され、食料品が安くなることこそ重要だ。」

野口氏は、自由貿易の偽善だけでなく、消費者より生産者の利益を優先している点にも問題を指摘している。
日本に住む人すべては消費者だ。
一方、貿易の公平性に左右される生産者は重要とは言え全体の一部である。
それなのに海外から需要を奪いたいという理由から生産者の利益が優先される。
野口氏は言い切る。

「農業の保護には、農業生産者の保護という以外の理由は見当たらない。」

なんと勇気のいる断言だろう。
この命題は詳細な条件が付されていないものの、読む者の多くは金銭的・経済的な面を中心にとらえるだろう。
つまり、カネの問題だと。
こうした受取は、農業生産者の反射的な防衛本能を呼び起こし、議論を難しくする。

この機会をBの人たちは待っている。
Cの人たちを取り込み、票やカネを集めるチャンスだからだ。
だから、人間の社会は難しい。