野口悠紀雄氏:意図的な財政拡大は無用

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早稲田大学ファイナンス総合研究所・顧問 野口悠紀雄氏が、日本の貯蓄投資バランス(ISバランス)について論じている。
日米間で経常収支の不均衡が問題化すれば、筋違いの財政拡大を要求されかねないという。

異次元緩和が極端な円高を押し戻してから、一時マイナス基調に移行するかと危惧された日本の経常収支はプラス圏で安定している。
一方、米国はそもそも構造的な経常赤字を抱えており、この傾向はトランポノミクスで拡大が予想されている。
野口氏は週刊ダイヤモンドへの寄稿で、この不均衡が日米間の軋轢に発展するリスクを指摘し、ISバランスとの関係から論じている。
経常収支とISバランスとは鏡写しの関係にあるからだ。
貸出超過をプラスとすると、ISバランスと経常収支の関係は

 家計のIS + 企業のIS + 政府のIS = 経常収支

の関係がある。

野口氏は日本のISバランスには2つの議論がありうるという。
1つ目は「企業部門の純貸出が巨額であること」であり、上式の「企業のIS」が大きいことだ。
言い換えれば、日銀が金融緩和を続けても、企業が投資をせず内部留保を続けていることだ。
これが経常収支を大きくしている。
投資不足はディスインフレの原因の一つであり重要なのだが、さらに気になるのは2つ目の議論だ。

「『プラザ合意』においては、日本が財政拡大政策を取ることが要請された。
そのときと同じ要求が出てくる可能性がある。」

つまり、上式の「政府のIS」を悪化させることで経常収支を減少させろという話だ。
政府間交渉の場、とりわけ米国との交渉では、結果を約束するよう迫られることが少なくない。
経常収支を減少させろと要求される場合、大くくりの数字さえ約束すれば、内訳が家計だろうが、企業だろうが、政府だろうが構わないはずだ。
しかし、政府が約束できるのは政府のISバランスしかないから、ここに数値目標を立てろと言ってくる。
米国の常套手段だ。

野口氏は、クリストファー・シムズ教授のFTPLにもとづく議論についても触れながら、日本が財政拡大する必要はないと論じる。

「現在の日本では、格別のアクションを取らなくとも、財政赤字が拡大していくことがほぼ不可避なのである。
それは、政府支出増加の原因が、高齢者の増加による社会保障費の増加であるからだ。」

なんとも皮肉な言い訳だ。
すでに悪化する見込みだから、これ以上悪化させる必要はないというのだ。
この点は、シムズ理論への否定的見解にもあてはまる。

「インフレ率が高騰してしまう危険が強い。
さらに、シムズのモデルで想定されるレベルに物価が落ち着く保証はない。」

野口氏は、仮に日米間で経常収支の不均衡が問題となる場合、こうした点を根拠に財政拡大要求を拒否すべきと説く。
そしてそのためには、日本が財政再建に努めていることが前提になると主張している。