ロバート・シラー:2つの幻想が崩れるとき

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資産価格の実証的研究で2013年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が、トランプ・ラリーを幻想と警告した。
2つの幻想が崩れる時、市場は居所を劇的に変えるという。

シラー教授は、最近の金融市場には2つの幻想がとりついているとProject Syndicateで書いている。

  • 人為的な幻想: トランプが事業の天才で、その力で米国を再び偉大にできる
  • 自然発生した幻想: ダウ平均20,000の心理的な壁

トランプ・ラリーの本質は、トランポノミクスだけでなく、こうした幻想のなせる業だというのだ。

前者のビジネス・マンの幻想を吟味するため、シラー教授は、歴代大統領の中でトランプ氏に似た人物としてカルビン・クーリッジ大統領(1923年8月3日–1929年3月4日)を挙げる。
極端に企業よりなクーリッジは「米国民の主たるビジネスは、ビジネスだ」と宣言し、減税を行ったと紹介している。
任期中、米経済は良好だったが、退任直後に株式市場は暴落し、大恐慌が始まる。

カルビン・クーリッジ大統領時代のダウ平均

この類推に対し、シラー教授は愉快な注釈を加えている。

「もちろん歴史が必ず繰り返すわけではなく、クーリッジはたった一つの例にすぎないから、予想の確たる基礎とはなりえまい。
さらに、トランプとは違い、クーリッジとメロン財務長官(当時)は分別・節度ある振る舞いの人だった。」

一方、後者のダウ平均20,000の壁については、貨幣錯覚の存在を指摘している。
史上最高値圏であることが壁の一因であるのは間違いないが、実は米国株の上昇ペースは皆が思うほど急激でもないのだという。
FRBがリフレ政策をとり、2%の物価目標を掲げていることを重視し、株式リターンは実質ベースでも検証すべきという。

「ダウ平均は2000年以来、実質(物価調整)ベースでわずか19%しか上がっていない。
17年で19%はとるにたらないものだ。
S&Pケース/シラー住宅価格指数は、実質ベースではまだ2006年のピークの16%下にある。」

市場は、この貨幣錯覚によって、ダウ平均20,000だとか史上最高値だとかいうところに幻想の壁を見ているのだという。
そして、幻想の壁を一たび突き抜けると、さらに先に進むことが多いのだという。

「米国では、トランプと資産価格史上最高値更新の組み合わせ(トランプ相乗効果)が、現在の市場の楽観という幻想を支えている。
市場で極端なポジションを取って困っているのでもない限りは、幻想が新た認識に変容していくのを見物するのも、儲からないかもしれないが、面白いだろう。
新たな認識は、投機的な市場において全く異なる価格水準を示唆するだろう。」

文脈を見る限り、「トランプ相乗効果」より上振れするという話でもないだろう。
ビジネス・マンの幻想は株価を持ち上げているはずだし、壁の幻想も最高値を更新してきている。
幻想が崩れるなら、下がると考えるのが自然だ。

シラー教授はダボス会議の席上、トランプ勝利を核兵器競争をもたらしうる恐ろしい悪夢と表現している。
まったく好意的に捉えていないことがわかる。