ロバート・シラー:好景気でも家計が支出を減らすワケ

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ロバート・シラー教授が「今日の停滞を理解するには」と題するコラムをProject Syndicateに寄せている。
人間社会では相反する観念が共存することがあり、経済においても偏ることのない複眼を持たなければならないと諭す。

「なぜこれらすべての経済的生命維持装置が必要なのか?
そして、なぜこうも長い間必要なのか?」

シラー教授の疑問は、各国で非伝統的金融政策が長期にわたって継続している理由にある。
早いうちから完全雇用に近い状態に達しながら、これら政策は終えられることがなかった。
なぜなのか。

コラムのタイトルにある「停滞」という言葉には不思議な響きがある。
為政者らが完全雇用・成長回復を自画自賛する今が停滞なのか。
しかし、生活が改善したとの実感の薄い庶民からすれば、停滞という言葉にも違和感がないのかもしれない。
シラー教授の考える停滞の原因は技術の進展だ。
技術の進歩は、将来多くの、あるいはほぼすべての雇用を奪い、大きな経済格差を助長する可能性があるという。
ここまでなら多くの人が言っていることだが、その先にシラー教授らしさが来る。

「長期的な雇用に漠然とした不安を感じ、人々はますます支出を抑えるだろう。
この不安とは、消費者信頼感指数の調査アンケートに答える際には最重要視されないであろう恐怖である。
もしもそうならば、人々が支出を抑えないようにするには、低金利という形の刺激策をどんどん強めていく必要に迫られるだろう。」

シラー教授は、ノーベル経済学賞学者であると同時に心理学者でもあるのだ。
教授の業績はシラーCAPES&Pケース・シラー住宅価格指数で有名なとおり、資産価格の実証的研究だ。
丁寧に方法論を確立し、コツコツと過去のデータを積み上げたのであろう。
そこから経験則を抽出した結果は、シラー教授がよく言うように《将来を正確に予想することは不可能》というものだ。
なぜなら、市場を動かすのは経済・投資理論ではなく、人間の心理だからである。

「ナラティブ心理学が教えてくれるのは、矛盾などないということ:
人々は並行し相反するナラティブ(物語)を同時に持ちうる。」

経済も市場も過去最高水準にあると吹聴される一方で、再び経済危機が近づいていると恐れる人がいる。
だからいつも油断はできないし、苦しんでいる人への配慮が必要だ。

「1933年、大恐慌のどん底でも、史上最高を記録した分野は少なくない:
原油生産、小麦、金、コモディティ取引所の参加権の値段、タバコ消費、郵便貯金、個別企業の売上・利益などなどだ。」