スタンド・プレーで劣化する米資本主義

トランプ次期大統領が一企業のメキシコ移転を思いとどまらせた話を自慢している。
しかし、モハメド・エラリアン氏は広がりがないと指摘し、ローレンス・サマーズ氏は資本主義の危機と心配している。

減税と引き換えのメキシコ移転取りやめ

ユナイテッド・テクノロジーズ傘下の空調大手キャリアがインディアナの生産拠点のメキシコ移転を取りやめた。
トランプ次期大統領とインディアナ知事でもあるペンス次期副大統領が、減税と引き換えに合意したもの。
合意内容には、キャリアによる新たな雇用創出策も含まれるという。
キャリアが計画どおりメキシコ移転を実施すれば1,300人の雇用が失われるはずだった。
合意により1,100人の雇用が維持されるという。
この取引について、独Allianz首席経済アドバイザーMohamed El-Erian氏がBloombergでコメントしている。

「マクロ効果となると、さほど意味のない規模の政策だ。
こうしたミクロな干渉を主要な手段としても、マクロの数字は動かない。」

トランプ次期大統領が選挙中、減税・歳出増・規制緩和・貿易政策見直しなどにより今後10年間で25百万人の雇用創出を目指すと公約したことを踏まえてのコメントだ。

ルールを失う資本主義

ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)の観点は経済にとどまらない。
今回のトランプ氏の手法を自身のブログで「その場しのぎの資本主義」と批判している。

「トランプ氏は思いのままに飴とむちを使い、キャリアに言うことをきかせた。
明に暗に、むちであったことがうかがえる。
メディアによれば、与えられる減税効果はインディアナ残留によって失われる節約効果のごく一部にすぎない。」

サマーズ氏は、米国の資本主義がルールと法に基づくものであるべきとの信念を述べている。

「裁判所は、契約や財産権を前任者や担当者とは関係なく認めている。
税は算出手順に基づき計算されるものだ。
企業や政府は最も安い業者から購入する。
規制は従前に公布されたルールに従う。
経済においては、国家による力の独占は、契約・財産権を堅持し、従前に公布された法を執行するために用いられる。」

問題の本質が見過ごされる

理想を述べる一方で、サマーズ氏は、世に汚職や利益誘導がはびこる現実も認めている。
身内が支配する州で、個別企業に対しささやかな褒美をちらつかせ、経済合理性に反する意思決定を強いるのもその典型だ。
サマーズ氏はそうした現象が現実になり始めていること、そして社会がその真相に気づいていないことに危機感を露わにする。
サマーズ氏は、次期大統領の今回の行動に対する評価が3つに分かれていると指摘する:

  • 目新しい
  • 規模を拡大するのが難しい
  • 民主党バーニー・サンダースに至っては強制性が不十分と主張

「これらすべては本質を欠いている。
大統領は巨大な潜在的力を有し、その使用にあたっては抑制的であるとする慣例がある。
それこそ、我が国とバナナ共和国とを分ける重要な相違点だ。」
もしもいきあたりばったりの権力の行使が許されれば、可能性は無限に広がってしまう。
ほとんどの企業は大統領と側近の顔色をうかがうようになる。」

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