クルーグマン:DBCFTはドル高要因

大統領や共和党が国境税の議論を進める一方で、ポール・クルーグマン教授が静かに理論的背景をレクチャーしている。
貿易理論をホーム・グラウンドとする教授の話だけに、聴いておかない理由はない。

国境税の3つのタイプ

輸入品にかかる税金をすべて関税と呼ぶのは少々誤解を生みやすい。
最近注目されている3つのタイプを理解しておこう。

  • 付加価値税(VAT)
  • 共和党が提案する国境調整(Destination-Based Cash Flow Tax border adjustment、DBCFTの国境調整)
  • トランプ大統領が主張する関税

米国が国外から財を輸入する場合を考えよう。
1つめのVATとは、輸入品の付加価値部分にかかるべきVAT(=国外で生じた付加価値に対するVAT)相当額を輸入時に徴収するというもの。
海外生産で取り漏れるVATを輸入時に取っておこうという考えだ。
クルーグマン教授は「付加価値税は保護主義ではなく、為替レートの変化さえもたらさない」と結論している。
この性格から、WTOでもVATのような間接税の国境調整を認めている。

定率関税はアウト

一番単純なのは、トランプ大統領が主張する関税だ。
これは、輸入額に対して、たとえば35%とか45%とかの税率を課すというもの。
言うまでもなく、WTO加盟国は一定率以上の関税を課さないことを約束している。
トランプ氏の主張は、関税の部分だけを取り出して言う限り、WTO違反だ。
そして、関税は貿易収支を動かし、為替レートを動かす

(次ページ: DBCFTはドル高)

共和党案は国内生産を拡大させる

今回の米国の議論で目新しくわかりにくいのは共和党が主張するDBCFTの国境調整だ。
これについて、クルーグマン教授が自身のブログでレクチャーしてくれている。
DBCFTとは何か、VATとの比較で教えてくれる。

  • VAT: (販売金額 - 外部購入の中間投入額)に対してかかる
  • DBCFT: (販売金額 - 外部購入の中間投入額 - 人件費・賃料など生産要素の費用)に対してかかる

企業は拠点間で製品を動かしたり、拠点自体を移転させたりして節税にいそしんでいる。
共和党の提案は、こうした節税のメリットを小さくするためのものだ。
これは国境における課税だけにとどまらず、法人所得税全般にかかわる税制改正案だ。
人件費・賃料を控除させることで、海外より高い人件費・賃金が不利になりにくくできる。

「ある意味、DBCFTはVATに国内の生産要素の活用に対する補助金を組み合わせたものと言える。
VATの部分は国際競争力に影響を及ぼさないが、補助金の部分は、賃金・為替が変化しない限り、国内生産を拡大させる。」

DBCFTはドル高

しかし、クルーグマン教授は共和党のDBCFTにも期待できないと示唆する。
「賃金・為替が変化しない限り」という条件が現実的でないからだ。

「米国がDBCFTを採用すれば、米国の競争優位がなくなるまで米ドル相場が上昇するだろう。
為替の調整が済んだ後には、貿易への効果は再びゼロになる。
一方で、ドル高によって金融市場に多くの短中期的な影響が及ぶだろう。」

クルーグマン教授は、どんな関税を課そうとも壁建設の費用が出るわけではないことを嘆いている。