クルーグマン:雇用を巡る2つの問い

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米大統領選前後すっかり政治屋と化していたポール・クルーグマン教授だが、ひさしぶりにWonkish(理屈っぽい)と注釈がついたブログ記事を書いた。
Wonkishはクルーグマン教授の知性を知る機会を示す目印だ。

混同される2つの問い

クルーグマン教授はNew York Timesへの寄稿で、製造業の雇用と貿易との関係について誤解があると指摘し、それに関する短いメモを配布している。
その中で教授は、バナナ共和国大統領が海外に製造拠点を移した企業を罰し雇用を取り戻すと吹聴していることを非現実的と斬って捨てた。
こうした明らかな誤解は2つの問いをごちゃまぜにしているところから生まれると教授は分析する:

  • (1) 貿易は、雇用全体における製造業のシェア下落にどれだけ影響したか?
  • (2) 貿易は、製造業における雇用の減少にどれだけ影響したか?

縮小を続ける米製造業

この2つの問いに答えるためにクルーグマン教授がまず示したのが次のグラフだ:

米製造業労働者数とシェア

米製造業労働者数(赤)は1970年から現在までで6百万人ほど、2000年からだと5百万人ほど減少している。
シェア(青)に至っては1/4から9%弱に減少している。
クルーグマン教授は、この数字が決して小さいものではないとしながら、マクロに見た場合にどのような意味を持つかを自問している。

問いへの答

教授は、米貿易赤字がGDPの3%程度であることを挙げ、仮に貿易赤字がなかったなら、米製造業の産出はGDPの2%分高かったろうと推計している。
これは現在の産出の1/5にあたるという。

ここで仮に米製造業の産出が1/5増えたとしよう。
現在の製造業労働者数は約12百万人だから、もしかしたら2.4百万人雇用が増えるかもしれない。
(実際には規模の経済が働くから、雇用増ははるかに小さな数字になるはずだ。)
2.4百万人は米総労働者数の1.6%にあたる。
ここで、クルーグマン教授が始めに設定した2つの問いに立ち返ってみよう:

  • (1) 貿易は、雇用全体における製造業のシェア下落にどれだけ影響したか?
    1/4から9%弱への減少のうち、貿易の寄与は最大1.6%にすぎない。
  • (2) 貿易は、製造業における雇用の減少にどれだけ影響したか?
    6百万人の下落のうち、貿易の寄与は最大2.4百万人。

(トランプを嗤えない日本)