クルーグマン:自由貿易が主因じゃない

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ポール・クルーグマン教授が「Wonkish」(理屈っぽい)と括弧書きしたブログ記事を連続して書いている。
大統領選では感情的なレトリックの目立った教授だが、この人がWonkishという記事を書いた時には一見の価値がある。

クルーグマン教授がNew York Timesのコラムで手始めに挙げたのが、保護主義的考えの持ち主が抱きがちな貿易赤字と雇用の関係だ。
教授は、この誤解を米経済にかかわるある事実から明らかにしようとする:

「我々の雇用は各セクターの和で成り立っている。
製造業では減少し、サービス業では増えている。」

教授はグラフを用いて、総需要が国内の生産活動と輸入によって充足されることを図示する。
そして、貿易赤字が製造業における生産の減少に対応することを認めている。
教授の主たる主張はここからだ:

「貿易赤字は総支出増加も意味しているので、その一部は製造業の生産減よりむしろ消費増を反映している。」

つまり、貿易を自由化すると製造業の生産は減少するが、それより大きな消費増が起こると言いたいのだ。
そして、「製造業における付加価値額がGDPの12%未満にすぎない」ことを考えると、製造業で失われるものは極めて少ないと言いたいのである。

クルーグマン教授は以前にも同様な議論を繰り返してきた。
前回は実数で、今回は模式図で示している。
分析としては正しい。
ただ、実際に製造業にいて職を失った人にとって、こうした説明がどういう意味があるのかはわからない。

この話を日本に敷延する時、3つの点に注意すべきだろう:

  • 自国に都合がいいから自由貿易を求めるという考えはいかがなものか。
    製造業の付加価値シェアが大きければ、保護主義が善になるのかということ。
  • 自由貿易を唱えるなら、政策が為替を歪めないようにすべきこと。
    通貨安政策は自由貿易とは真逆のコンセプトであり、通貨安政策を行う限り、重要なはずの自由貿易の正当性は失われる。
  • 日本のGDPに占める製造業シェアは急回復したとは言え20.3%(2015年)にすぎない。
    過去をひきずった賃金水準など製造業の利点は多いが、本当に製造業を盛り立てるために他の経済主体(とりわけ家計)に不利を強いていいのか。

政治家・財界が学者を利用し、学者は生身の人間の視点をとらえきれない。
教育などのお題目を唱えるのは正しいことだが、現実には労働力の流動性は高くない。
さまざまな欺瞞がはびこるうちは、自由貿易・保護貿易の議論は続くのだろう。
シクリカルな時代には好景気が利害の対立を自然解消してくれたのだが、今ではそうした天恵が望めない。