アデア・ターナー:債務は本当に存在するのか、しないのか

アデア・ターナー

英金融サービス機構の元長官で、以前から日本にヘリコプター・マネーを勧めてきたアデア・ターナー氏が、週刊エコノミストのインタビューを受けている。
その記事が、どうにもピントがずれていて面白い。

エコノミスト誌は「シムズ論を読み解く」と題しFTPL(クリストファー・シムズ教授らが唱える物価水準の財政理論)にかかわる3つの記事を載せている。
そのいずれもが、どうにもピントがずれている。
書き手の側が本当に本質を理解できているのかとの疑念が湧くほどだ。
早稲田大学 岩村充のインタビューなどは、シムズ論文の枠にとどまらない広がりのある有用な話題のように思われるが、逆にその広がりゆえにシムズ論文にピントがあっていない。

ターナー氏へのインタビューも似たような印象を与える。
ここでは、ピントのずれ方を象徴する部分を2点紹介しよう。

一つ目のピンボケは、財政+量的緩和の組み合わせが脱デフレに効果的かという問いに対する答。
ターナー氏はYesと答えた後、用心深く話を続けている。

「もし、ある国の経済が直面している問題の一つが、名目総需要の不足であるならば、政府や中央銀行にとって打つ手がないわけではない。
・・・
意思さえあれば必ず対処できる。
なぜならおカネを印刷して、それを使うことができるからだ。」

ターナー氏の話した内容は正しい。
しかし、この説明でデフレが解消されると皆が納得するだろうか。

そもそも名目総需要を増やすには財政出動すればいいだけのことだ。
しかし、その場合、財政悪化の懸念が経済を冷やすかもしれないし、持続性にも疑問が出よう。
だからこそ、ターナー氏はおカネを印刷しろと言っており、なおかつ、発行するのはおカネだけにして、国債は発行するなと言っているのだ。
(国債は返済しなければいけないが、おカネは返済しなくてもいいため。
 実はこれにも本当は議論がある。)
いわゆるヘリコプター・マネーの薦めである。

さらに言えば、名目総需要が増えたから自動的にインフレが連動して上昇するわけでもない。
そこにも丁寧な説明が必要だったはずだ。
名目総需要の要素である物価上昇率と実質総需要、最終的にはどちらが重要な目標なのか、その整理も必要だ。

もう一つのピンボケは、ターナー氏の日本にかかわる不吉な予言である。
建前に終始し財政ファイナンスを認めない日本も2022年頃には認めるようになるだろうと言う。

「その時、日本のエコノミストや金融市場で、『そもそも債務の意味とは何なのか』『債務は本当に存在するのか、しないのか』といった議論も盛り上がるだろう。
そうして日本はマネタリーファイナンス理論を発展させる国になると思う。」

国家が返すあてのない借金をした時、貸した国民が返せと言わずに借金をロールした時、借金の多くを中央銀行が肩代わりをした時、何をどう解釈すべきなのか。
ターナー氏は、そうした根源的な問いを投げかけている。
政府・中央銀行が建前に終始し、市場も思考を停止してしまっている現状をやんわりと批判しているのであろう。

ターナー氏の予想が正しいとすれば、日本人初のノーベル経済学賞のテーマは財政ファイナンスの研究になるのではないか。