【書評】 MISSION INCOMPLETE

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2011年から昨年3月まで日銀審議委員を務めた白井さゆり慶應義塾大学教授が著した英文の経済書。
アジア開発銀行研究所から発行されており、ADBサイトから無料でダウンロードできる。

インフレへの執念

「Reflating Japan’s Economy」との副題がついている。
邦題をつけるなら『任務達成ならず – 日本経済をリフレせよ』とでもすればいいだろうか。
あるいは、前段を『ミッション・インポッシブル』とすべきだろうか。
異次元緩和開始から4年近くが経つのに物価目標は大きく未達のままである状態を表現したものだ。
白井教授は審議委員時代、インフレ至上主義ではなかったのだが、その教授でさえインフレへの執念は大きかったのだと感じさせられる。
込められた意味の悲愴さに比べ、バラエティ番組(手品の決めぜりふ?)に出てきそうな言葉の軽妙さが面白い。

150ページに及ぶ本書は、英文でびっしり書かれた大作。
1999年以降の日本の金融政策を詳説している。
読みやすい英語で書かれているものの、このすべてを日本人が読むのは骨が折れる。
白井教授の近著と併用しながら活用するのが現実的だろう。

膨張を続ける中銀のバランスシート

かく言う筆者もすべては読まないだろう。
そこで、真っ先に興味を持った部分を紹介しよう。
「第6章 超金融緩和政策に残された構造的で未解決な課題」の「中央銀行のバランスシート・リスクは解消できるか?」の節だ。
量的緩和開始以降、大量の国債をはじめ、不動産(REIT)や株式(ETF)まで買い入れてきた日銀は大きなバランスシート・リスクを抱えている。
特に、金利上昇が始まるであろう量的緩和の出口では大きなリスクが予想される。
このあたりについて、白井教授は一節をあてている。

「中央銀行の多くは、ある程度の利益を上げ資本を蓄積することが、運営の独立性を保つ上で重要と考えている。
・・・
中央銀行は債務超過になっても日々の業務を継続することができる。
しかし、そうした状況が長く続けば、最終的には政府による資本注入が必要となり、中央銀行が大切にしてきた運営の独立性が損なわれかねない。」

やや役人ぽい問題意識の持ち方とは思うが、現実に先進各国の中央銀行が同様の問題意識を持っているのも事実。
こうした考えを持つのは、ヘリコプター・マネーに代表されるように、中央銀行を統合政府の一部として見る考えが増えているからだ。
こうした考えばかりが先に立てば、中央銀行の独立の重要性は看過されかねない。
実際、統合政府で見れば、中央銀行がバランスシートを膨らましても問題にならないとの議論も成り立つ。

(次ページ: 問題の核心)