【書評】英EU離脱! 日本は円高に対処できるか

早稲田大学ファイナンス総合研究所・顧問 野口悠紀雄氏が、米大統領選直前の10月に上梓した本。
その後のあまりの急展開にすでに陳腐化したところもあるが、いくつか有用なメッセージが込められており、紹介しよう。

やや気持ちの入りすぎ

まず、違和感から指摘させていただこう。
本来のメッセージが有用なだけに、なければよかったと思う点だ。

  • いたずらにアベノミクスや異次元緩和に反対しすぎる。
  • それにともない、事実・データの解釈に一方的なところが散見される。
  • 算数の例に誤りがある(「時間軸効果」を説明した箇所)。

熱い気持ちが先に立ち、緻密さをやや欠いたように見える。
(3つ目を除けば)もちろん好みの問題でもあろうが、不必要な反感・反論を招きやすいのも事実だ。
こうした点に寛容になれば、本書から重要なメッセージを受け取ることができるだろう。

ユートピアを描くだけでは無責任

では本書の手柄は何だろう。
野口氏はこう書いている。

「ユートピアを描くだけでは無責任だ。
マイナス成長は決して望ましいことではないが、そうなってしまった場合の見取り図も描いておく必要がある。」

では、マイナス成長になってしまった時に、どうすればいいのか。
野口氏は、マイナス成長の痛みを(出版直前に進みつつあった)円高と資源安による交易条件の改善で補えと言っているのだ。
エネルギー価格を含む輸入物価の下落が国内物価を下落させれば、それが消費者としての家計・企業を潤すという考えだ。
つまり、デフレを享受しろとのメッセージであり、この数年リフレ派が強弁してきたデフレ悪役論を真っ向から否定するものだ。

デフレが問題の根源なのか。
アベノミクスが始まる直前、さかんに戦われた論争だ。
安倍政権が発足し、政治的にはいったんこの論争には決着がついた。
しかし、その後の日本経済の推移をみる限り、経済学的に決着がついていないことはあきらかだ。
政府がデフレ脱却を宣言した後も、長らく空前の金融緩和が継続しているのはその傍証だ。
むしろ、デフレ悪役論は日に日に敗色を深めている。

(次ページ: 輸入物価低下が庶民に届かないワケ)