【書評】現金の呪い-紙幣をいつ廃止するか?

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ハーバード大学Kenneth Rogoff教授が、高額紙幣の廃止を訴えた著書。
高額紙幣の廃止によって地下経済を縮小し、あわせて金融政策の効果を改善することができると説いている。(浜町SCI)

あの論文の主張は正しかったといまも考えている。
現金需要に無分別に応じることで政府が得る『利益』は、現金とくに高額紙幣のせいで容易になる犯罪や脱税のコストによって、大部分が打ち消されてしまう。

「あの論文」とは2002年前後ロゴフ教授がIMFチーフ・エコノミストを務めている頃の論考を指す。
その頃から15年が過ぎる過程で世界はリーマン危機を経験した。
危機からの回復過程では(日銀を除く)各国中央銀行はゼロ金利制約の洗礼を受ける。
金融政策の効果は十分に発揮されず、大胆なQEを実施したはずの米国でさえ、実施しては止め、QE3まで数えるに至った。

ゼロ金利制約を取り払うことができれば、金融政策は効果を取り戻すことができるかもしれない。
限界のないマイナス金利が可能なら、中央銀行は再び武器を手にすることができる。
その手段こそ通貨の電子化であり、現金を電子化してマイナスの金利を付せばゼロ金利制約は回避できる。
こうした新たな社会的意義を得て、本書は大作となった。
前半は、地下経済(犯罪・脱税)の駆逐についてであり、後半が金融政策についてである。

ビットコインは本物になりうる

本書を単なる提言の本と見るのは誤りだ。
450ページに及ぶ内容には、通貨や金融にかかわる基本的なレクチャーが詰まっている。
通貨の歴史、シニョリッジ、非伝統的金融政策の手段、今後ありうる金融政策の選択肢、紙幣温存下でのマイナス金利の実施法、暗号通貨、金、・・・

問題が地下経済なのであれば、高額紙幣を廃止しても、暗号通貨が用いられるだけではないか。
こう考える人は多いはずだ。
ロゴフ教授は、暗号通貨が本物の通貨になりうるだろうか、と自問する。

「答はたぶんイエスだ。
ビットコインあるいは今後登場する類似の暗号通貨は、政府の後ろ盾があろうとなかろうと、価値の尺度や交換手段などとして、通貨本来の役割を果たすことができる。
いやそれどころか、多くの意味で、複雑な取引や契約に従来の通貨よりはるかにうまく対応できると考えられる。」

元IMFチーフストラテジストが「政府の後ろ盾があろうとなかろうと」機能すると述べた点は注目に値する。

(次ページ: ビットコインはまだ未熟)