【書評】ユーロから始まる世界経済の大崩壊

世界銀行上級副総裁等を歴任したジョゼフ・スティグリッツ教授によるユーロ圏についての論説・提言。
「ユーロから始まる世界経済の大崩壊 格差と混乱を生み出す通貨システムの破綻とその衝撃」との副題がついており、ギリシャ問題が再び表面化しつつある今、参考になる一冊だろう。

ユーロ圏にかかわる諸問題を経済だけでなく政治ほかのさまざまな側面に配慮しながら丁寧に議論している。
全編にスティグリッツ教授の考えが溢れているが、それを度外視しても、重要ポイントの列挙・事実認識の確認という意味で有用な書物となっている。
常に弱者に優しく、強者や権力者に辛辣な教授が、トロイカ体制やEU・ドイツを厳しく批判する。
完璧主義の教授に妥協はなく、誤り・不足あるところ、すべてを斬りまくる。
立派なのは、(現実的な実現性はわからないが)批判と提案が対をなしているところだろう。
教授の処方箋の一端を紹介しよう。

「ドイツと北部諸国の一部(オランダやフィンランドなど、現在の苦境からすぐに復活しそうな国)を離脱させるのだ。
ヨーロッパに健全性を取り戻させるのが目的なら、この方法はギリシャを脱退させるよりたやすいだろう。」

ユーロ加盟国間の格差の主因の一つが単一通貨ユーロであるのは明らか。
ドイツのように強い国にとってユーロは弱すぎ、ギリシャのように弱い国にとってユーロは強すぎる。
結果、強い国がさらに強くなり、弱い国はさらに弱くなる。
この弊害を取り除くため、ユーロ圏を「無印ユーロ」圏と「北ユーロ」圏に分割しろとスティグリッツ教授は提言している。
貿易黒字をため込んで批判を浴びてきた北ユーロ圏は、強い北ユーロによってその黒字が消されるという。
教授はこの考えを敷延し「柔軟なユーロ」の構想を提案している。

本文で458ページ、文字も比較的ぎっしり詰まっている。
これで2,200円(税別)だから、出版とは本当に儲からない営みだ。

さて、日本からすれば、ユーロ圏の話は少々遠い物語に感じられる。
しかし、日本が本当にTPPのような広域の包括的通商協定を目指すなら、ユーロ圏の諸問題はいい反面教師になるはずだ。
欧州やNAFTAを見ればわかるように、FTAとは単に貿易の話ですむものではない。
為替、通貨、金融政策、銀行監督、移民、財政へと幅広い分野に広がるものだ。
とりわけ、域内の為替・移民政策は問題化が避けられない。
TPPが頓挫した今、日本は広域の協定を目指すのか、二国間協定を駆使するのか、慎重に考えないといけない。
残念なのは、そうした議論が公に深まらないまま、個別の話だけが進んでしまうことではないか。